ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。【連載中】
 ◇

 エンドロールが途切れ、テレビの画面がふっと暗転した。

 静寂が降りたリビングには、初夏の夜風が網戸をすり抜ける微かな音だけが響く。
 隣からは、お揃いのシトラス系のシャンプーの香りが、少し高い体温を帯びた空気とともに漂ってきた。

「どうだった?」

 肩口に落ちた私の黒髪を指先で弄りながら、ハルが感想を尋ねてくる。

「えっ? まあ……そこまで怖くなかったかな。驚いたのも、一か所だけだったし」

「いや。三か所でしょ?」

「…………」

 思わず息を呑んでしまった場面を、しっかり数えられていたらしい。

 いつも私がカットしている前髪をセンターで分けた額の下。
 鋭さと甘さが入り混じった視線で見つめられ、たまらずフイッと目を逸らした。

 そっぽを向いた私の頬に吐息がかかるほど近づいて、彼は言う。


「じゃあ。次、何したい?」
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