ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
笑顔で「待ってたわよ〜」と中へ促してくれる。
「お邪魔します」
久しぶりの玄関へ、そっと足を踏み入れさせてもらった。
学生時代に何度も、ご両親が留守の間、ハルに腕を引かれ忍び込んだ場所――。
ここへ来るたび、あの頃の非礼を心の中でお詫びしている。
「やっとお休みが合ったわね」
義母は今でも、看護師としてバリバリと働いている。
「はい。火曜日に合わせていただいて、すみません」
「いいのよ。私が会いたかったんだから〜」
まるで実の娘のように接してくれて、いつ会っても心が若々しく、姑というよりは年の離れた姉のように話しやすい存在だ。
リビングに入ると、ふわりと、大好きな香りが鼻を掠める。
「あれ……ジャスミンティー、淹れてくださったんですか?」
「そうよー。マナちゃんが来ること、遥に連絡したら、用意しておけって」
キッチンカウンターの向こうで笑っている。