ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
明るい光に満ちたリビング。
テーブルの上には、以前私が母の日に贈ったガラスのフラワーベースが、季節の花を抱えて輝いている。
ホットジャスミンティーが入ったマグカップを、二つ持ってきてくれた。
「美味しい淹れ方も長文で送られてきたんだけど、うちにはガラスポットはないし……簡単でごめんね?」
「いえいえ。私もハルと暮らす前は、いつも出来合いのものを買ってましたから……」
ノンカフェインの茶葉があることも、いくつかの工程を経て丁寧に淹れるとずっと美味しくなることも、ハルが教えてくれたのだ。
「普段、私の連絡には『はい』か『いいえ』しか返さないくせに。突然、ものすごい長文の説明がきて驚いたわ。ほら見て、いつものやり取り。心理テストじゃあるまいし」
「ふふ……」
ユーモアのあるツッコミに、思わず笑みがこぼれる。
差し出されたスマートフォンの画面にはたしかに、短い吹き出しばかりの淡白なやり取りの中、突如として投下された熱量の高いメッセージがあった。
「本当、マナちゃんに首ったけよね」
湯気が運んでくる上品な香りを楽しみながら、義母は呆れたように微笑んだ。
「それで……そんな遥が、よくマナちゃんと離れるなんて決断できたわね?」
その問いかけに、カップを持つ指先が僅かに強張る。
ずっと胸の奥につかえたままの重たい石を、吐き出さずにはいられなかった。