ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

「…………」

 彼は、何も答えない。
 居た堪れなくなって、再び視線をツリーへと逃がした。

 時間が一秒、また一秒と進むたび、心拍が速度を上げていく。


 その時だった。

 私の視界から、煌びやかな光がすべて消え去った。
 ハルの顔が、目の前でそれらを塞いだのだ。


 そして、唇に小さな温度が触れた。


 起きたことを頭で理解するよりも早く、ハルの香りで満たされていく。
 ウールのコートに、冷たい風が染みた匂い。
 そして、これまでも時折掠めていた、静かで落ち着いた香り。

 ゆっくりと離れていく彼の後ろから、光の海が戻ってくる。
 呆然としたまま、至近距離にある瞳を見つめ返すことしかできなかった。


「付き合おう」

「…………」

「俺ら、一緒にいたら、笑えるじゃん」


 いつものように強引な物言いではあるものの、その声の端々には、少しの気恥ずかしさと不安が滲んでいるように思えた。
 視線だけは、私をしっかりと捉えたままでいる。

 繋がれたままの指先に、きゅっと力を込めた。

「……うん」

 そのぬくもりに導かれるように、小さく頷いた。

 私の答えを聞いたハルは、もう一度顔を近づけ、さっきよりも熱と輪郭を帯びたキスを重ねてきた。

 優しい光に包まれながら、私も少しだけ背伸びをして――それに応えたのだった。
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