君に届け

生きる理由

脳裏に、あの黒い大津波と、看板の下で私を必死に突き放した優子の姿が、鮮烈にフラッシュバックする。
救われようとしている自分への激しい嫌悪感と罪悪感で、一気に心が凍りついていくのが分かった。
私は、翔吾くんが握ってくれていた手を、拒絶するように強く振り払った。

「でもっ、1回消えた命は戻ってこないじゃない……!!!! なのに……なのに消えた命の分まで生きるなんて……そんなの無駄じゃん!!! 綺麗事言わないでよ!!」

体育館の暗闇に、私の痛々しい叫び声が響き渡る。
そうだ。どんなに美しく言ったって、優子もお父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも、もう二度と帰ってこない。
ただの無駄だ。生き残った私への、残酷な言い訳にすぎない。
私の激しい拒絶に、翔吾くんは一瞬だけ目を見開いた。
だけど、彼は怒ることも、否定することもしなかった。
ただ、溢れてくる涙を隠そうともせず、私の目をもう一度まっすぐに見つめ返した。

「……うん。無駄かもしれない。戻ってこないのも、その通りだよ」

翔吾くんは静かに私の言葉を受け止めて、それから、振り払われた私の手を、もう一度だけぎゅっと強く握り直した。

「相原の言う通り、これは俺の綺麗事だし、ただの言い訳だよ。でもさ……そう思わなきゃ、俺も前を向けないんだ。あいつらが生活したかった明日を、俺たちが代わりに生きるんだって、そう自分に言い聞かせなきゃ、今すぐあいつらのところに行きたくなっちゃうから……!」

翔吾くんの、剥き出しの本音だった。
彼だって、綺麗事を言わなきゃ立っていられないほど、死にたいくらいボロボロに傷ついていたんだ。

「でもっ……でもっ……!」

言葉が、うまく続かない。涙で視界がぐしゃぐしゃになって、翔吾くんの顔が歪んで見える。
私と同じように、消えてしまいたいほどの絶望を抱えながら、それでも必死に私を引き留めようとしてくれている。
そんな彼の痛々しい姿を見ていたら、「無駄」だなんて、これ以上突き放す言葉はどこにも見つからなかった。

「俺のわがままでいい。綺麗事でいいから……お願いだから、生きることを諦めないでくれ」

空っぽだった私の胸の奥に、翔吾くんの必死な叫びが、今度こそドクドクと熱い音を立てて流れ込んでいく。
消えかけそうになっていた私の「生きたい」という本能が、彼の本音の温もりによって、本当の意味で目を覚ました。

「共に生きよう、相原。あいつらの分まで、一緒に」

翔吾くんがくれた、誰よりも優しい言葉。
それが、暗闇の底で心も体も動けなくなっていた私に、もう一度だけ前を向くための、本物の『生きる理由』をくれた瞬間だった。
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