伯父の命により、高潔すぎて『聖人』と噂の男の元へ行く事になりました。

5.記憶

 魔物狩り後にやってきた街は、東方でも有名な繁華街で、街の名を灯華(とうか)と言った。
 建物と建物の間に吊るされた鮮やかな灯籠たちが、夜の街を明るく照らしていた。
 宙に浮かぶ無数の赤い灯りを見つめていると、まるで夢の中にでも迷い込んでしまったような、そんな錯覚をしてしまいそうだ。
 通りに沿って建ち並ぶ店が美味しそうな匂いで歩く人々を誘惑し、通りでは足もおぼつかない人々が楽しそうに歩いていく。
 活気に溢れている街というのが印象だった。
 梓娟は賑やかな様子を見回しながらひとり通りを歩いていた。
 静か過ぎる龍颯山に暫くいた所為か、街の喧騒に少し戸惑いもしたが、時折頬をなでてくれる夜風が心地良い。
 夜も遅くにわざわざ街を出歩いているのには理由があり、今は目的を果たしたので宿へと戻る途中だった。
 ちらりと目線を下にして、胸元で抱えていた酒瓶を見つめる。
 
「とりあえずお酒を買ってはみたものの、蒼眞佳はまだ起きているかしら?」

 そう呟く声も街の賑わいに掻き消されてしまう。

「本当に、賑やかな街ねぇ」

 こんなにも人の多い街にどこか既視感を覚えていた。
 梓娟は幼き頃、父母と旅をしていた。この街はその時に訪れた街にどこか似ているような気がした。

 ──あれはなんて街だったかしら?

 首を捻りながら記憶を手繰り寄せる。
 確か……と思い出そうとしても幼き頃の記憶は曖昧で、街の名前は覚えていない。ただ丁度祭りがあるとかで、多くの人で賑わっていた事は覚えている。

 ──空から花びらが降っていた、ような気がする……?

 それがあまりにも綺麗で、夢中になっていて空を見上げていた。

 ―――――――――

「…⋯え?」

 何かに優しく腕を引かれて体が後ろへとふらついた。その直後、梓娟のいた場所を二人組の男たちが通り過ぎて行った。
 陽気に肩を組む男たちの足取りはかなりおぼつかなく、あの様子ではろくに前も見えてないようだった。
 もしあのままぼんやりと突っ立っていたら危うくぶつかられていた。

 ──大通り(ここ)は呑気に考え事をしている場所じゃないわね。

 危なかったと息を吐いたとき、手を繋いで歩く父娘の姿が目に入った。
 楽しそうに話すその光景を見つめているとかつての記憶がよみがえってきた。
 片方の手で父と手を繋ぎ、もう片方の手でお土産に買った絵を握りしめ、帰りを待つ母の下へ急いで歩いていた。
 人混みではぐれないように握りしめた父の手は、少しひんやりとしていて、けれども大きくて、優しかった。

 ──……懐かしいわね……。

 梓娟は懐かしさにくすりと笑う。その笑みはどこか寂しさがあった。
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