初恋を拗らせたホテル御曹司は癒やしの女医にだけ激愛本能を滾らせる


 きっと表情にも心情が表れていたのだろう。 

 正面の京香から潜めた声が届いて、遥奈はハッとする。

「ねえ、遥奈、もしかして……」

 どうやら、遥奈の表情から、話題の零が、以前話した初恋の相手だと察したようだ。

 京香は沈痛な表情を浮かべていて、心から案じてくれているのが痛いほど伝わってくる。

 頷いて応えた遥奈は、友人を安心させるべく潜めた声で言葉を紡いだ。そうして――

「でも、ただの噂だから、大丈夫」

 得意な作り笑顔ではなく、心からの笑みを返した。

 ――不安がまったくない、と言えば、嘘になる。

 確かに、あの頃、零には親が決めた許嫁がいるという噂があった。

 だが、それはあくまでも噂で、事実かどうかはわからない。

 ――だったら、零のことを信じる。

< 82 / 237 >

この作品をシェア

pagetop