名もなき空に、青い風が吹く
 その言葉を聞き逃さなかったわたしの心臓
が、どくんと跳ねる。けれど前から薄々感じ
ていた二人の気持ちを確信したわたしの心は
複雑で、大翔のひと言を嬉しいと思うのに顔
に出すことは出来ない。

 結局、わたしは聞こえなかったフリをした。

 「美味しいおからドーナツを買ってあるの
よ、ひと休みしましょう」

 伯母さんの気遣いもあって、わたしは逃げ
るように二人の側を離れたのだった。





 スマホの背面に貼り付けたキーリングハン
ガーに、ピンク色のキーホルダーがぶら提が
っている。わたしたちだけの仲良しアイテム。
世界に三つしかないパズルのピース。だけど
いまは、他の二つと繋がることのない虚しい
カケラ。

 「なんの役にも立たなかったな」

 ゆらゆらと揺れる手作りのキーホルダーを
眺めつつ独り言ちると、お弁当箱を巾着袋に
突っ込んでいた和佳(のどか)がわたしを向いた。

 「いまなんか言った?」

 「あー、言ったけど、言ってない。ごめん、
独り言だから気にしないで」

 「まぁーた黄昏てたのぉ?芦香はホントに
ぼんやりさんなんだから。それよりさ、今日
ヒマ?新しく出来たジェラテリアに行こうか
って千聖(ちさと)と相談してるんだけど、一緒に行か
ない?」

 「あれ、今日は茶道部休みなの?確か木曜
は活動日だよね?」

 中学からずっと帰宅部長を貫いているわた
しが目を瞬くと、机をくっつけて向かい側に
座っている千聖が代わりに答えた。

 「講師が熱出して寝込んじゃったから休み。
昨日の夜先生からメッセージ届いて、わたし
が部員全員に連絡まわしたの。だから放課後
の予定はフリー」

 赤いセルフレームのメガネのブリッジに指
を添え、千聖が胸を張って見せる。茶道部に
所属している二人はとっても仲良しで部活が
ないときはたまに、カフェに寄り道するのだ。
もっとも茶道部の活動は週一だからほとんど
帰宅部のわたしと忙しさは変わらないけれど、
二人は予備校や習い事の予定も入っている。
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