名もなき空に、青い風が吹く
 「でも、妹ちゃんはお母さんに切ってもら
ってるんでしょ?芦香も納得いくまで希望を
伝えて気に入る感じに仕上げてもらえばいい
じゃん。四千円浮いたら大きいよ?金欠解消
して、いつでも一緒にカフェ行けちゃうよ?」

 「まあ、そうなんだけど」

 また千聖の説得が始まってしまい、若干、
テンションが下がる。このくだり、何度目だ
ろう。

 「もう美容室のお姉さんと仲良しになっち
ゃったから、いまさら変えられないんだよね。
だから金欠は解消ならず!ごめんね、二人で
行ってきて」

 この話はここまで、と言わんばかりに両手
を合わせて頭を下げると、和佳が神妙な顔を
して頷いた。

 「しょうがない。一緒に来られない芦香の
ために、わたしがジェラードの写メと感想を
送ってあげよう。句読点なしで五千字くらい」

 「いらないよー、そんな長い感想」

 「だよねー、じゃあ写メだけ送る」

 だっはっは、と和佳が豪快に笑う。
 その姿に眉を顰め、千聖が言った。

 「もー、いくら見せパン履いてるからって
椅子の上で胡坐かかないでよね。茶道部で学
んだ美しい所作と立ち振る舞い、ぜんぜん活
かされてないじゃん」

 「だって、一日中上履き履いてると足蒸れ
るんだもん。別にいいじゃん、ここは女子高
で男子なんか一人もいないんだからさぁ」

 スカートをパタパタしながら、和佳が笑う。
仰け反って笑う姿はもはやオジサンだ。淑女
のたしなみはどこへやらだ。これが茶道部の
部長だと知ったら、来年度の新入生はひとり
も入部しないだろう。

 二人のやり取りに肩を竦め、わたしはその
場に相応しい笑みを浮かべる。

 悲しくても泣けないのに、心底楽しいわけ
じゃなくても笑えるんだな、なんてこっそり
二人に失礼なことを考える。

 子どもの頃は心から笑えていた。底抜けに
明るくて、馬鹿みたいに元気で、いつも二人
の真ん中でお日様みたいに笑っていた。

 だけどいまのわたしは教室の片隅にひっそ
り佇む、温度低め女子だ。夢も希望もなくて、
風船のようにただなんとなく日々を彷徨って
いる魂の抜け殻。あっという間に一日が過ぎ
て、十年が過ぎて、気付いたら人生が終わっ
てたってことになっても構わないとさえ思っ
ている。
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