陽炎に揺れる夢
夏休みも終わり、二学期が始まった。
高校三年生。
クラスの空気は、すっかり受験モードだ。
放課後はみんな塾に散っていくから、誰かと遊ぶ約束をすることも、ほとんどなくなった。
朝比奈君も、大学を受験すると言っていた。
彼の成績なら、きっと心配はいらない。
もしかしたら、推薦ももらえるのかもしれない。
私は、まだ将来のことを、うまく思い描けずにいる。
お昼になった。
去年、同じクラスだった編み物グループのメンバーが、それぞれの教室から私の席に集まってきた。
一緒にお弁当を広げながら、笑い合う。
私は今でも、不思議に思う。
こうして普通の光景の一部に、自分が自然に存在していることが。
ブブブ……
と、スカートのポケットに入っているスマホが震えた。
確認すると、
『今日、ファミレスに行けないかな?』
という、朝比奈君からのメッセージだった。
『大丈夫』と返信すると、
『それじゃあ放課後に』
と、すぐに返ってきた。
(なんだろう……)
そのあとも、どこかモヤモヤした気持ちを抱えたまま、5.6時間目の授業を受けることになってしまった。
ファミレスに着くと、朝比奈君はすでに来ていて、私を見つけると軽く手を上げた。
「今日も暑いね」
そう言いながら席に着こうとすると、
「冷たい飲み物、持っておいで」
とテーブルのタブレットを指さして、ドリンクバーを二人分注文してあることを教えてくれた。
氷をたくさん入れたアイスティーを手に、テーブルに戻る。
朝比奈君は、鞄から封筒を取り出すと、その中身を机の上に広げた。
たくさんの写真だった。
朝比奈君は、その束を私に差し出した。
夏休みに、撮影スタジオで撮った、私と朝比奈君の写真。
一枚目から、順に見ていく。
写真越しにも、私たちの緊張が伝わってくる気がした。
それが、あるところから、急に表情が和らぎ始めている。
中には、笑顔の写真も混じるようになってきた。
そして――。
(これ、誰?)
私と同じ菫色の服を着た女性の顔が写っている。
思わず、朝比奈君に視線を送る。
彼は、何も言わず、ただ微笑んでいた。
もう一度、写真を見る。
「これ……私?」
カメラ目線ではないけれど、振り返っているその人は、私以外には考えられない…。
「その写真、すっごくいいよね」
「三枝さんも、周りのスタッフの人も、このまま雑誌の表紙を飾れるって褒めてくれてたよ」
「プロの人ってすごいんだね。私まで、こんなに素敵に撮ってくれるんだもんね」
そう感心したように言うと、
「確かにプロのカメラマンさんってすごいよね。でも、いくら何でも、別人みたいにはできないよ」
「それはね、紛れもなく遠野さんなんだ」
「みんなに可愛いって言われてたでしょう。あれは、お世辞じゃなくて、本心なんだよ」
言われ慣れていない言葉をかけられて、それが自分に向けられたものだなんて、どうしても思えなかった。
もう一度、写真を見る。
(これが……私)
メイクの力って、すごいな。
そう思うことで、なんとか現実と折り合いをつけようとした。
高校三年生。
クラスの空気は、すっかり受験モードだ。
放課後はみんな塾に散っていくから、誰かと遊ぶ約束をすることも、ほとんどなくなった。
朝比奈君も、大学を受験すると言っていた。
彼の成績なら、きっと心配はいらない。
もしかしたら、推薦ももらえるのかもしれない。
私は、まだ将来のことを、うまく思い描けずにいる。
お昼になった。
去年、同じクラスだった編み物グループのメンバーが、それぞれの教室から私の席に集まってきた。
一緒にお弁当を広げながら、笑い合う。
私は今でも、不思議に思う。
こうして普通の光景の一部に、自分が自然に存在していることが。
ブブブ……
と、スカートのポケットに入っているスマホが震えた。
確認すると、
『今日、ファミレスに行けないかな?』
という、朝比奈君からのメッセージだった。
『大丈夫』と返信すると、
『それじゃあ放課後に』
と、すぐに返ってきた。
(なんだろう……)
そのあとも、どこかモヤモヤした気持ちを抱えたまま、5.6時間目の授業を受けることになってしまった。
ファミレスに着くと、朝比奈君はすでに来ていて、私を見つけると軽く手を上げた。
「今日も暑いね」
そう言いながら席に着こうとすると、
「冷たい飲み物、持っておいで」
とテーブルのタブレットを指さして、ドリンクバーを二人分注文してあることを教えてくれた。
氷をたくさん入れたアイスティーを手に、テーブルに戻る。
朝比奈君は、鞄から封筒を取り出すと、その中身を机の上に広げた。
たくさんの写真だった。
朝比奈君は、その束を私に差し出した。
夏休みに、撮影スタジオで撮った、私と朝比奈君の写真。
一枚目から、順に見ていく。
写真越しにも、私たちの緊張が伝わってくる気がした。
それが、あるところから、急に表情が和らぎ始めている。
中には、笑顔の写真も混じるようになってきた。
そして――。
(これ、誰?)
私と同じ菫色の服を着た女性の顔が写っている。
思わず、朝比奈君に視線を送る。
彼は、何も言わず、ただ微笑んでいた。
もう一度、写真を見る。
「これ……私?」
カメラ目線ではないけれど、振り返っているその人は、私以外には考えられない…。
「その写真、すっごくいいよね」
「三枝さんも、周りのスタッフの人も、このまま雑誌の表紙を飾れるって褒めてくれてたよ」
「プロの人ってすごいんだね。私まで、こんなに素敵に撮ってくれるんだもんね」
そう感心したように言うと、
「確かにプロのカメラマンさんってすごいよね。でも、いくら何でも、別人みたいにはできないよ」
「それはね、紛れもなく遠野さんなんだ」
「みんなに可愛いって言われてたでしょう。あれは、お世辞じゃなくて、本心なんだよ」
言われ慣れていない言葉をかけられて、それが自分に向けられたものだなんて、どうしても思えなかった。
もう一度、写真を見る。
(これが……私)
メイクの力って、すごいな。
そう思うことで、なんとか現実と折り合いをつけようとした。