恋するつもりはなかった、僕らの夫婦物語。

あとがき――裏側を語りまくる時間です――

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
まず最初に言わせてください。この作品を書き終えた今、私はものすごく寂しいです。
なぜなら……。
大鷹春太という「面倒くさい男」と、九条小春という「最強に無自覚な女の子」を、もう毎日動かせないからです。
いや、本当に春太は大変でした。
書き始めた時の予定では、
「冷たい」
「合理的」
「感情を見せない」
「政略結婚だから妻に興味なし」
という、いわゆる王道の冷徹社長キャラクターでした。
そうです。
最初の春太は、完璧なスパダリになる予定だったんです。
……予定でした。
ところが。小春を登場させた瞬間、全部が狂いました。
作者の想定を、一番裏切ったのは春太本人です。
「愛するつもりはない」
そう言わせた瞬間、私は思いました。
(あ、この人絶対に落ちるな)と。
だって、あまりにも分かりやすかったんです。
自分では冷静なつもりなのに、小春の一言一言に振り回される。
料理を作られれば動揺する。
「お帰りなさい」と言われれば心拍数がおかしくなる。
怪我をすれば怒る。
熱を出せば仕事を放り出す。
そして極めつけ。
兄だと知らずに嫉妬する。
……もう完全に恋なんですよね。
本人だけが最後まで認めないという。
そこが春太の一番好きなところです。
仕事では世界中の人間を相手に戦えるのに、小春一人には勝てない。
何億円規模の契約では一切動揺しないのに、妻の笑顔一つで簡単に崩れる。
そのギャップを書きたかったんです。
そして、今回、どうしても語りたいのが第6章と第7章のタイトルです。
自分で言うのもなんですが……。
めちゃくちゃ気に入っています。
まず第6章。
「嘘だろ、これはただの『同情』だ(※いいえ、完全に恋です)」
これ、本当に春太そのものなんです。
春太って最後まで、
「これは恋じゃない」
「責任感だ」
「夫として当然だ」
「同情だ」
って言い続ける男なんですよね。
でも読者の皆様から見れば、
いやいやいや。
どう考えても恋でしょう、と。
そこが面白い。本人だけが違うと思っている。
作者としては、その「本人と読者の認識のズレ」を楽しんでもらいたかったんです。
春太の頭の中では、『冷静な判断』なんです。
でも外から見ると、『好きな女性を心配している男』なんですよね。
この差を書くのが本当に楽しかったです。
そして第7章。
「これは夫の義務だ(※誰がどう見ても恋です)」
これも大好きです。
なぜなら、この時点の春太はもう完全に負けています。
でも本人だけが、「義務」という最後の防波堤にしがみついている。
看病する。おかゆを作る。仕事を調整する。そばにいる。
普通に考えたら、もう愛情表現なんです。
でも春太だけは、「夫だから」と言い張る。
……いや、可愛いですよね。
あんなに完璧な社長なのに、恋愛だけは小学生男子みたいになる。
そこが彼の魅力だと思っています。


そして小春。
この子についても、少し裏話を。
最初は「癒し系ヒロイン」にしようと思っていました。
でも書いているうちに、どんどん強くなりました。
小春は、守られるだけの女性ではありません。
確かに不器用です。確かにお嬢様としては完璧ではありません。
でも、人の心を見る力が誰よりもある。
春太がどれだけ冷たい言葉を投げても、その奥にある優しさを見つける。
普通なら傷つく場面でも、「この人、本当は優しいんだ」と信じられる。
それって、実はものすごく強いことだと思うんです。
春太が小春に救われたように、小春もまた春太に救われています。
二人は、一方的に救い合ったわけではありません。
春太だけが小春に救われたわけでもない。
小春もまた、春太によって少しずつ変わっていきました。
最初の小春は、「役に立たなければ」という気持ちを強く持っていました。
九条家のお嬢様として期待されてきたのに、何も完璧にこなせなかった。
ピアノも、ダンスも、お茶の作法も。
周囲が求める「完璧なお嬢様」になれなかったことを、ずっと心のどこかで気にしていたんです。
だからこそ、大鷹家へ嫁ぐことになった時。
小春は、自分にできることを必死に探しました。
美味しい料理を作ること。
帰ってきた人を笑顔で迎えること。
疲れている人に温かい時間を作ること。
それは決して、「いい妻に見られたい」という計算ではありませんでした。
ただ、自分にも誰かを幸せにできる力があると知りたかった。
そんな小さな願いから始まったんだと思います。
そして、その小さな願いを一番最初に見つけてくれたのが春太でした。
本人は最後まで認めませんでしたけどね。
「料理が美味かったから」
「心配しただけ」
「夫として当然だった」
……いやいや。
読者の皆様なら分かっていたと思います。
全部、小春が大切だったからです。

そして、この作品を書いていて一番楽しかったのは、二人の距離が少しずつ変化していくところでした。
最初の春太は、小春を「契約相手」としか見ていませんでした。
名前で呼ぶことすら、どこか事務的だった。
でも、いつの間にか。
帰宅した瞬間、小春を探している。
声を聞くだけで安心する。
笑顔を見ると一日の疲れが消える。
自分でも気づかないうちに、小春が「生活の一部」ではなく、「人生に必要な存在」になっていた。
恋って、たぶんそういうものなのかもしれません。
ある日突然、雷に打たれたように始まる恋もあります。
でも春太の場合は違いました。
毎日の積み重ね。
何気ない会話。
一緒に食べた食事。
「お帰りなさい」と「ただいま」。
そういう小さな幸せが積み重なって、気づいた時にはもう戻れなくなっていた。
そこを書きたかったんです。


そして、ここからは少しだけ作者自身のお話を。
私は物語を書く時、キャラクターを「動かす」というより、「見守る」感覚になることがあります。
最初に設定を作った時は、「春太はこういう性格だから、こういう行動をする」と決めています。
でも、書いている途中で、「いや、この人ならここでこうするだろうな」と、キャラクター自身が答えを出してくれる瞬間があります。
春太なんて、まさにそうでした。
本当はもっと早く素直になる予定でした。
もっとスマートに、「君を愛している」と言わせる予定でした。
……ですが。
書いているうちに思ったんです。
この男がそんな簡単に認めるわけがない、と。
何十億円の取引を成功させる男が。
会社では誰よりも冷静な男が。
恋だけは不器用で、不格好で、認めるまでにものすごく時間がかかる。
だからこそ春太らしい。
そう思って、彼にはたくさん遠回りしてもらいました。
その結果。
読者の皆様には、かなり長い間、「早く認めろ!」と思わせてしまったかもしれません。
でも、その時間も含めて、春太という男だったんだと思います。


そして最後に。この物語を書き続ける中で、改めて感じたことがあります。
物語を続ける習慣というのは、特別な人だけが持っているものではないということです。
最初から完璧な文章を書ける人はいません。
最初から全部の展開が決まっている人も、きっと少ないと思います。
大切なのは、小さくても「続きを考える時間」を作ること。
一行でもいい。
一場面でもいい。
キャラクターが何を考えているのか想像するだけでもいい。
その積み重ねが、いつか一つの世界になります。
この作品も、最初はたった一つの、「冷たい社長が、太陽みたいな妻に負ける話を書きたい」という気持ちから始まりました。
そこから春太が生まれて。小春が生まれて。
二人の人生が始まりました。
そして気づけば、私自身も二人の未来を見届けたいと思うようになっていました。
キャラクターたちは不思議です。
作者が作った存在なのに、いつの間にか作者自身を驚かせてくれる。
「この二人なら、きっとこれからも幸せに暮らしていくだろう」
そう思えるところまで来られたことを、本当に嬉しく思います。



最後になりますが、ここまで大鷹春太と九条小春の物語を読んでくださった皆様。
本当に、本当にありがとうございました。
春太の不器用さに笑ってくださった方。
小春の優しさに癒された方。
二人のすれ違いに「早く気づいて!」と思ってくださった方。
最後まで二人を見守ってくださったこと、心から感謝しています。
物語は終わりました。
でも、二人の人生はきっと続いていきます。
朝になれば、小春はいつものように笑顔で言うでしょう。
「春太さん、おはようございます」
そして春太は、少し照れながら答えるはずです。
「……ああ。おはよう、小春」
昔は「愛するつもりはない」と言った男が。
今では誰よりも深く、妻を愛している。
そんな二人の未来を想像しながら、このあとがきを閉じたいと思います。
最後まで、本当にありがとうございました。
また次の物語で、お会いできますように。

――完――

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