機械の幽霊は麻薬畑で踊るか? ※一括転載
(えっ!)
乱射で、残りのパワー残量らしきゲージ表示がみるみるうちに、目に見えて減っていく。ビームとはいえ小口径で、あの重装甲の大型には牽制や威嚇以上には効いていない様子なのに(装甲強度、ビーム対策もしているのか)、構わずに撃ちまくる。
だが、光弾の雨あられを浴び続けるうちに、急に敵のモーションがスローになりだす。ふとパトラの頭に浮かんだのは、茹でられるカニやロブスターだった。燃えていくコカの麻薬畑のもうもうたる毒煙の中で、ついに動作が停止したようだ。
「そっか!」
あちこちに傷口があるものだから、ビームの直接の衝撃は防げても、熱までは防ぎきれない。だから内部の耐熱性に劣った部分が加熱で損傷したのだろう。胴体はまだしも、手足はさっきの殴り合いで装甲を破るような切れ込みが入っているのだから。
カプリコンは歩み寄り、前に蹴り飛ばしてひっくり返す。敵ロボットのコックピットが開き、二人のパイロットが逃げだそうとして右往左往している。ロボットは加熱していたし、周りも火の海なのだから、ハッチを開けたところで逃げ場にも困ったのだろう。
「あいつら!」
パトラの胸に、憎悪と殺意が湧く。
その感情を、カプリコンは「殺せ」という命令だと思ったらしかった。長い足を振り上げて踏みにじる。血を吸って叩かれた蚊のように一瞬で潰れて飛び散ってしまう。
(あ。殺しちゃった。やっちゃった。私が殺した。私が「やれ」って思ったから、踏み潰して殺しちゃった! ああっ!)
呆気にとられ、急に吐き気がして口元を押さえる。わけがわからないうちに涙が流れだして身体が冷えていくようだった。殺したいくらい憎んでいたとはいえ、思うのとやるのでは別次元。人を殺したのは初めてだった。
それからふと気がつけば、シートと足元は戦闘中の失禁と脱糞で汚れ臭っている。自分がこんなところで何をやっているのかわからなくなり、嗚咽が止まらない。
6
縛り上げられたパン焼き親方が、フリチンで地べたに正座している。銃や鈍器や刃物で武装した、反乱の虜囚女たちが十人くらいで取り囲んでいた。
それでも不敵に笑う。
「フハハ! 俺はゲリラだぞ、さあ殺せ! 大満足だ、我が人生に一片の悔いもない! おい、ミレーユ、良かったぞ! お前を最後にまた犯してやれて最高だった。生意気なガキどもも最後の教育で殴りつけてやったわ!」
理解不能な言い草に、女の一人が当惑顔で棍棒で殴る。止めたのはミレーユだった。
「許してあげて下さい!」
あのあと、パン焼き親方は「俺はゲリラだぞ?」とミレーユを押し倒した。彼女を犯している最中に駆けつけてきて、「一緒に戦って下さい」と頼む少年兵たちと、殴り合いの大乱闘を繰り広げた。
しかし、彼は銃もナイフも使わなかった。わざわざ素手で、まだ子供のような少年兵たち五六人と殴り合いの大喧嘩したのだ。
ミレーユだって、彼に組み伏せられて暴行されているところでなかったとしたら、通りがかったゲリラの歩哨たちから撃たれたり殺されていても不思議はなかっただろう。「こいつは俺に任せとけ、お前らもそこいらのバカ女とでもヨロシクやれよ」という言葉で、あっさりと笑って見逃された。
長年に「ゲリラ村のパン焼き職人」をやっていて、一応は「仲間」の男たちに今さら銃を向ける気にはなれなかっただろう。かといって日常にパン焼き仕事を手伝わせて、自分のことを慕っている少年兵たちを殺す気にもなれなかったらしい。
こんな殺気だった混乱の中で彼らを守る方法としては、彼は自分で手加減して「遊んでやる」のが、かえって最善であったのかもしれなかった。騒動を聞きつけた別の歩哨が覗いたときには「この小生意気なガキどもは任せとけ。パン焼きに必要な奴らだし、主任親方様がチョイと懲らしめて教育してやってるのさ」と言って、殺されずに済んだ。
彼は普段には、女や子供にめったに暴力など振るったことがない(せいぜい怒鳴りつけたり小突くだけ、ミレーユにもせいぜい面白半分の尻叩きくらいだ)。ミレーユが作業の合間に少年兵たちに「学校ごっこ」で授業の真似事をするのも、特に咎めもしなかった。彼なりに「ガキども」のことは考えていたのか。
そこでミレーユはため息して言った。
「この人は、パン焼きに必要ですし、この村でパン工場するのを手伝って貰いたいんです」
それから彼女は自分の下腹をそっと撫でて付け加えた。目線はチラチラと、アザのある少年兵たちや殺気だった女たちの間を行き来している。
「それに、義理のパパかお爺ちゃん役もお願いしてたし。誰の子供かわからないけど。この子たちだって、世話したり仕事を教えてくれる人は必要ですし」
やがて、女たちの一人が言った。
「爆弾首輪か電子足輪でも付けてやったら?」
乱射で、残りのパワー残量らしきゲージ表示がみるみるうちに、目に見えて減っていく。ビームとはいえ小口径で、あの重装甲の大型には牽制や威嚇以上には効いていない様子なのに(装甲強度、ビーム対策もしているのか)、構わずに撃ちまくる。
だが、光弾の雨あられを浴び続けるうちに、急に敵のモーションがスローになりだす。ふとパトラの頭に浮かんだのは、茹でられるカニやロブスターだった。燃えていくコカの麻薬畑のもうもうたる毒煙の中で、ついに動作が停止したようだ。
「そっか!」
あちこちに傷口があるものだから、ビームの直接の衝撃は防げても、熱までは防ぎきれない。だから内部の耐熱性に劣った部分が加熱で損傷したのだろう。胴体はまだしも、手足はさっきの殴り合いで装甲を破るような切れ込みが入っているのだから。
カプリコンは歩み寄り、前に蹴り飛ばしてひっくり返す。敵ロボットのコックピットが開き、二人のパイロットが逃げだそうとして右往左往している。ロボットは加熱していたし、周りも火の海なのだから、ハッチを開けたところで逃げ場にも困ったのだろう。
「あいつら!」
パトラの胸に、憎悪と殺意が湧く。
その感情を、カプリコンは「殺せ」という命令だと思ったらしかった。長い足を振り上げて踏みにじる。血を吸って叩かれた蚊のように一瞬で潰れて飛び散ってしまう。
(あ。殺しちゃった。やっちゃった。私が殺した。私が「やれ」って思ったから、踏み潰して殺しちゃった! ああっ!)
呆気にとられ、急に吐き気がして口元を押さえる。わけがわからないうちに涙が流れだして身体が冷えていくようだった。殺したいくらい憎んでいたとはいえ、思うのとやるのでは別次元。人を殺したのは初めてだった。
それからふと気がつけば、シートと足元は戦闘中の失禁と脱糞で汚れ臭っている。自分がこんなところで何をやっているのかわからなくなり、嗚咽が止まらない。
6
縛り上げられたパン焼き親方が、フリチンで地べたに正座している。銃や鈍器や刃物で武装した、反乱の虜囚女たちが十人くらいで取り囲んでいた。
それでも不敵に笑う。
「フハハ! 俺はゲリラだぞ、さあ殺せ! 大満足だ、我が人生に一片の悔いもない! おい、ミレーユ、良かったぞ! お前を最後にまた犯してやれて最高だった。生意気なガキどもも最後の教育で殴りつけてやったわ!」
理解不能な言い草に、女の一人が当惑顔で棍棒で殴る。止めたのはミレーユだった。
「許してあげて下さい!」
あのあと、パン焼き親方は「俺はゲリラだぞ?」とミレーユを押し倒した。彼女を犯している最中に駆けつけてきて、「一緒に戦って下さい」と頼む少年兵たちと、殴り合いの大乱闘を繰り広げた。
しかし、彼は銃もナイフも使わなかった。わざわざ素手で、まだ子供のような少年兵たち五六人と殴り合いの大喧嘩したのだ。
ミレーユだって、彼に組み伏せられて暴行されているところでなかったとしたら、通りがかったゲリラの歩哨たちから撃たれたり殺されていても不思議はなかっただろう。「こいつは俺に任せとけ、お前らもそこいらのバカ女とでもヨロシクやれよ」という言葉で、あっさりと笑って見逃された。
長年に「ゲリラ村のパン焼き職人」をやっていて、一応は「仲間」の男たちに今さら銃を向ける気にはなれなかっただろう。かといって日常にパン焼き仕事を手伝わせて、自分のことを慕っている少年兵たちを殺す気にもなれなかったらしい。
こんな殺気だった混乱の中で彼らを守る方法としては、彼は自分で手加減して「遊んでやる」のが、かえって最善であったのかもしれなかった。騒動を聞きつけた別の歩哨が覗いたときには「この小生意気なガキどもは任せとけ。パン焼きに必要な奴らだし、主任親方様がチョイと懲らしめて教育してやってるのさ」と言って、殺されずに済んだ。
彼は普段には、女や子供にめったに暴力など振るったことがない(せいぜい怒鳴りつけたり小突くだけ、ミレーユにもせいぜい面白半分の尻叩きくらいだ)。ミレーユが作業の合間に少年兵たちに「学校ごっこ」で授業の真似事をするのも、特に咎めもしなかった。彼なりに「ガキども」のことは考えていたのか。
そこでミレーユはため息して言った。
「この人は、パン焼きに必要ですし、この村でパン工場するのを手伝って貰いたいんです」
それから彼女は自分の下腹をそっと撫でて付け加えた。目線はチラチラと、アザのある少年兵たちや殺気だった女たちの間を行き来している。
「それに、義理のパパかお爺ちゃん役もお願いしてたし。誰の子供かわからないけど。この子たちだって、世話したり仕事を教えてくれる人は必要ですし」
やがて、女たちの一人が言った。
「爆弾首輪か電子足輪でも付けてやったら?」