笑顔の仮面は君の前だけ壊れる

307号室

第21章 307号室

翌朝。

私は何度もバッグの中を確認した。

銀色の鍵は、昨夜と変わらずそこにあった。

307

それだけが刻まれている。

会社へ着いても、その数字が頭から離れない。

昼休み、思い切って朝比奈さんと神崎主任に昨夜の出来事を話した。

「佐伯さんに会ったんです。」

二人は同時に顔を上げた。

「本当に?」

朝比奈さんの表情から笑顔が消える。

私はバッグから鍵を取り出した。

神崎主任は鍵を見るなり、小さく息をのんだ。

「……まさか。」

「この鍵、何なんですか?」

主任は迷うように朝比奈さんを見る。

朝比奈さんは静かにうなずいた。

「もう話そう。」

神崎主任は鍵を手に取り、小さくつぶやいた。

「これは会社の鍵じゃない。」

「え?」

「駅前の『東都セントラルホテル』のルームキーだ。」

私は驚いて目を見開いた。

「307号室……。」

朝比奈さんが低い声で言う。

「五年前、佐伯さんが最後に目撃された部屋だ。」

その瞬間、部屋の空気が止まった。

「今日の仕事が終わったら、三人で行こう。」

朝比奈さんは私をまっすぐ見つめる。

「でも約束して。」

「……何ですか?」

「何があっても、一人で行動しないこと。」

私は静かにうなずいた。

その日の夜。

ホテルの廊下は静まり返っていた。

307

古びたプレートが貼られたドアの前で、私は無意識に息を止める。

神崎主任が鍵を差し込んだ。

カチッ――。

乾いた音が響く。

ゆっくりと開いた部屋の中は、誰も住んでいないはずなのに、きれいに片付いていた。

机の上には、一冊の黒いノート。

その表紙には、白い文字でこう書かれていた。

『すべては、ここから始まった。』

私は震える手で、そのノートに触れた。
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