笑顔の仮面は君の前だけ壊れる

黒いノート

第22章 黒いノート

部屋の中は驚くほど静かだった。

窓は閉まり、時計だけが規則正しく時を刻んでいる。

まるで、五年前から時間が止まったままのようだった。

私は机の上の黒いノートをそっと開く。

最初のページには、日付だけが書かれていた。

2021年4月3日

その下には、丁寧な文字が並んでいる。

『私は、真実を知ってしまった。』

ページをめくる。

『会社のお金じゃない。もっと大きな秘密がある。』

さらに次のページ。

『朝比奈さんは悪くない。神崎さんも悪くない。二人とも誰かにはめられた。』

思わず朝比奈さんを見る。

彼は苦しそうに目を閉じていた。

「……佐伯さんらしい字だ。」

神崎主任も黙ったまま、ノートを見つめている。

最後のページを開こうとした、その時。

バサッ。

一枚の封筒が床へ落ちた。

中には一枚のSDカードと、小さなメモ。

『最後まで信じられる人は、一人だけ。』

「SDカードを見よう。」

朝比奈さんがノートパソコンを開き、カードを差し込む。

保存されていた動画は一本だけ。

再生すると、画面に映ったのはホテル307号室。

撮影しているのは佐伯真奈だった。

「もし、この動画を見ているなら……。」

佐伯さんの震える声が部屋に響く。

「私はもう、この会社にはいないと思います。」

私は思わず息をのむ。

「犯人は会社の中にいます。でも、その人は自分では手を汚しません。」

そこで突然、佐伯さんが後ろを振り返る。

誰かが部屋へ入ってきたようだった。

「来ないで!」

佐伯さんが叫ぶ。

画面が大きく揺れ、映像は真っ暗になった。

そして最後に、一瞬だけ映った。

ドアの前に立つ、一人の人物のシルエット。

顔は逆光で見えない。

ただ、その人物の右手には――

会社の社員証が握られていた。

部屋の空気が凍りつく。

黒幕は、外部の人間ではない。

会社の社員だったのだ。
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