笑顔の仮面は君の前だけ壊れる

朝比奈の告白

第28章 朝比奈の告白

「朝比奈さん……。」

私は社員証を握りしめたまま、その場に立ち尽くした。

どうしてここに。

どうして今になって。

混乱する私の前に、資料室の扉がゆっくり開く。

「探していたのは、それだね。」

朝比奈さんだった。

いつもの優しい笑顔はない。

静かな表情で、私の手にある社員証を見つめていた。

「……知っていたんですか?」

「知っていた。」

その一言に胸が締めつけられる。

「隠していたんですか?」

朝比奈さんはゆっくりとうなずいた。

「隠したかったわけじゃない。」

「じゃあ、どうして!」

思わず声を荒らげる。

「私、ずっと信じてたのに……。」

朝比奈さんは目を伏せた。

「信じてくれたからこそ、話せなかった。」

静かな声だった。

「五年前、事件が起きた夜、僕は現場にいた。」

私は息をのむ。

「でも、犯人じゃない。」

「だったら、誰なんですか?」

「……それは、まだ言えない。」

その瞬間、私は首を振った。

「また隠すんですね。」

朝比奈さんは苦しそうに拳を握る。

「言えば、君まで危険になる。」

「もう十分危険です!」

初めてだった。

朝比奈さんに感情をぶつけたのは。

部屋に沈黙が流れる。

やがて朝比奈さんは、小さく笑った。

その笑顔は、初めて見るほど寂しかった。

「強くなったね。」

そう言うと、胸ポケットから古びた鍵を取り出した。

「これは?」

「会社の地下資料室の鍵。」

「地下……?」

「誰にも知られていない保管庫がある。」

私は目を見開いた。

「そこに、五年前の事件で処分されるはずだった資料が残っている。」

「本当ですか?」

朝比奈さんは静かにうなずく。

「でも、一人では行かない。」

その時だった。

廊下から慌ただしい足音が聞こえる。

神崎主任が息を切らして飛び込んできた。

「朝比奈!」

主任の顔は青ざめていた。

「地下資料室が荒らされた!」

「……!」

「しかも、保管されていた事件資料が全部なくなっている。」

その言葉を聞いた瞬間、朝比奈さんの表情が変わる。

「間に合わなかったか……。」

そして神崎主任は、震える手で一枚の紙を差し出した。

紙には、黒い文字でたった一文だけ書かれていた。

『真実は、もう誰にも届かない。』
< 28 / 30 >

この作品をシェア

pagetop