笑顔の仮面は君の前だけ壊れる

知りすぎる人

「白石さん、おはよう。」

朝比奈さんは、いつもと変わらない笑顔で声をかけてきた。

「昨日はちゃんと家まで帰れた?」

「はい。雨も降りませんでしたね。」

そう言うと、朝比奈さんは少しだけ目を細めた。

「途中で寄り道したでしょ?」

思わず動きが止まる。

「え……?」

「駅前の本屋さん。新刊、買ってたよね。」

私は息をのんだ。

確かに仕事帰り、ふらっと立ち寄った。

誰にも話していない。

「どうして知ってるんですか?」

笑顔のまま、彼は肩をすくめた。

「偶然見かけただけ。」

それだけ言って、自分の席へ戻っていく。

だけど、その「偶然」が胸に引っかかった。

昼休み。

同期の美咲が真剣な表情で私を見つめる。

「琴葉……ひとつだけ言っておくね。」

「何?」

「朝比奈さんには、あんまり近づきすぎない方がいい。」

「どうして?」

美咲は何かを言いかけて、周りを見回した。

そして小さく首を振る。

「……ごめん。今は言えない。」

その視線の先には、こちらを見て微笑む朝比奈さんがいた。

その笑顔は昨日までと同じはずなのに、なぜか今日は少しだけ冷たく見えた。
< 3 / 30 >

この作品をシェア

pagetop