笑顔の仮面は君の前だけ壊れる
笑顔の仮面が壊れた日
第30章 笑顔の仮面が壊れた日
真っ暗な地下資料室。
録音は途中で途切れ、静寂だけが残った。
「開けろ!」
神崎主任が何度も扉を叩く。
返事はない。
その時、部屋の奥で小さな明かりが灯った。
一台の古いプロジェクター。
壁に映し出されたのは、一人の男性だった。
営業部長――黒田。
会社では温厚で、誰からも信頼されている人物だった。
『ここまで来るとは思わなかった。』
録画された映像の中で、黒田は穏やかに笑っていた。
『佐伯真奈は、会社の不正を知ってしまった。』
『そして朝比奈も、神崎も、それを止めようとした。』
私は息をのむ。
『だから私は、証拠を消した。』
『書類も、映像も、記録も。』
『でも、一番簡単なのは、人の記憶を書き換えることだった。』
朝比奈さんが静かに目を閉じる。
「やっぱり、あなただったんですね……。」
その瞬間。
地下資料室の扉が開いた。
立っていたのは、黒田本人だった。
「残念だったね。」
穏やかな笑顔。
会社で見せていた、あの優しい笑顔と何も変わらない。
「人はね。」
黒田は一歩ずつ近づいてくる。
「優しい人ほど信じるんだ。」
「だから私は、一度も疑われなかった。」
朝比奈さんが私の前へ立った。
「もう終わりです。」
「終わる?」
黒田は小さく笑う。
「証拠はあるのかい?」
その時だった。
神崎主任が静かにICレコーダーを持ち上げた。
「ある。」
黒田の表情が初めて崩れる。
「録音は途中で切れていない。」
神崎主任は微笑んだ。
「自動でクラウドに保存される機種なんだ。」
朝比奈さんも静かに続ける。
「佐伯さんは最後まで諦めなかった。」
その瞬間、地下資料室の外から複数の足音が響いた。
「警察です!」
扉が勢いよく開き、刑事たちが部屋へなだれ込む。
黒田は逃げようとしたが、刑事に取り押さえられた。
連行される直前、黒田は私を見て笑った。
「君は佐伯真奈によく似ていた。」
「だから選んだ。」
私は首を横に振る。
「違います。」
震える声で、私は答えた。
「私は佐伯さんにはなれません。」
「でも、佐伯さんが守ろうとした真実は、私たちが守ります。」
黒田は何も言わず、静かに連れて行かれた。
長い沈黙のあと。
朝比奈さんが私に向き直る。
「ごめん。」
「全部、一人で背負おうとして。」
私は小さく笑った。
「もう、笑顔の仮面はいりません。」
朝比奈さんの瞳が揺れる。
「これからは、本当の笑顔でいてください。」
その言葉に、彼は初めて肩の力を抜いた。
会社のみんなに見せる完璧な笑顔ではない。
少し不器用で、少し照れた、本当の笑顔だった。
その笑顔を見た瞬間、私はようやく気づいた。
私が恋をしたのは、仮面をつけた彼ではない。
傷つきながらも誰かを守ろうとする、ありのままの朝比奈悠真だった。
真っ暗な地下資料室。
録音は途中で途切れ、静寂だけが残った。
「開けろ!」
神崎主任が何度も扉を叩く。
返事はない。
その時、部屋の奥で小さな明かりが灯った。
一台の古いプロジェクター。
壁に映し出されたのは、一人の男性だった。
営業部長――黒田。
会社では温厚で、誰からも信頼されている人物だった。
『ここまで来るとは思わなかった。』
録画された映像の中で、黒田は穏やかに笑っていた。
『佐伯真奈は、会社の不正を知ってしまった。』
『そして朝比奈も、神崎も、それを止めようとした。』
私は息をのむ。
『だから私は、証拠を消した。』
『書類も、映像も、記録も。』
『でも、一番簡単なのは、人の記憶を書き換えることだった。』
朝比奈さんが静かに目を閉じる。
「やっぱり、あなただったんですね……。」
その瞬間。
地下資料室の扉が開いた。
立っていたのは、黒田本人だった。
「残念だったね。」
穏やかな笑顔。
会社で見せていた、あの優しい笑顔と何も変わらない。
「人はね。」
黒田は一歩ずつ近づいてくる。
「優しい人ほど信じるんだ。」
「だから私は、一度も疑われなかった。」
朝比奈さんが私の前へ立った。
「もう終わりです。」
「終わる?」
黒田は小さく笑う。
「証拠はあるのかい?」
その時だった。
神崎主任が静かにICレコーダーを持ち上げた。
「ある。」
黒田の表情が初めて崩れる。
「録音は途中で切れていない。」
神崎主任は微笑んだ。
「自動でクラウドに保存される機種なんだ。」
朝比奈さんも静かに続ける。
「佐伯さんは最後まで諦めなかった。」
その瞬間、地下資料室の外から複数の足音が響いた。
「警察です!」
扉が勢いよく開き、刑事たちが部屋へなだれ込む。
黒田は逃げようとしたが、刑事に取り押さえられた。
連行される直前、黒田は私を見て笑った。
「君は佐伯真奈によく似ていた。」
「だから選んだ。」
私は首を横に振る。
「違います。」
震える声で、私は答えた。
「私は佐伯さんにはなれません。」
「でも、佐伯さんが守ろうとした真実は、私たちが守ります。」
黒田は何も言わず、静かに連れて行かれた。
長い沈黙のあと。
朝比奈さんが私に向き直る。
「ごめん。」
「全部、一人で背負おうとして。」
私は小さく笑った。
「もう、笑顔の仮面はいりません。」
朝比奈さんの瞳が揺れる。
「これからは、本当の笑顔でいてください。」
その言葉に、彼は初めて肩の力を抜いた。
会社のみんなに見せる完璧な笑顔ではない。
少し不器用で、少し照れた、本当の笑顔だった。
その笑顔を見た瞬間、私はようやく気づいた。
私が恋をしたのは、仮面をつけた彼ではない。
傷つきながらも誰かを守ろうとする、ありのままの朝比奈悠真だった。
