年の差を超える恋歌
末山愛斗は物心ついたときから演歌が好きだった。
高校時代になると、さらに昭和歌謡に熱中し、植木等の「スーダラ節」やいしだあゆみの「ブルーライト・ヨコハマ」をよく口ずさみ、歌うことが日常の一部になっていた。
同世代の若手歌手や流行の音楽にはあまり興味が湧かず、いつも心惹かれるのは自分よりずっと年上の、歴史のある歌声たちだった。
時は流れ、愛斗は三十五歳になり、念願の演歌歌手としてデビューを果たした。所属するのは「虹色舎」という事務所だ。
ここはカラオケが大好きで歌に情熱を持つ人たちが集まり、ボーカルトレーナーであり社長兼マネージャーでもある翼の指導のもと、多くの歌手が育ってきた場所だった。
事務所には、演歌歌手の島あきのや亜蘭、作詞家の円香乃、編曲家の伊戸のりといった実力派たちが名を連ね、愛斗もその一員として日々歌を磨いていた。
そんな愛斗が今、心から憧れ、夢中になって追いかけている歌手がいた。
澤田知可子――シンガーソングライターとして活躍し、「会いたい」という曲が大ヒットした有名な女性歌手だ。すでに還暦を超えているというのに、その佇まいはいつまでも若々しく、美しさと気品に満ちている。
愛斗にとって、彼女は遠い存在でありながら、いつも心の支えになる憧れの人だった。
ある日のこと、愛斗は翼から事務所に呼び出された。
「愛斗くん、決まったよ。『ハマダ歌謡祭』に出演することになっわ」
「ハマダ歌謡祭ですか! 昔からよく見ています、夢みたいです」
翼は微笑みながら台本を手渡す。愛斗がそれを開き、出演者一覧に目を通した瞬間、息を呑んだ。
澤田知可子――その文字がはっきりと記載されていた。
「えっ、澤田知可子さんも出るんですか?」
「うん、そうだよ。他には小林明子さんなど、大物ぞろいだから緊張するだろうけど、がんばってね」
ページをめくると、確かに有名な名前が並んでいたが、演歌歌手は自分だけだった。それでも、憧れの知可子と同じ舞台に立てると思うと、胸は高鳴るばかりだった。
次の日、スタジオに入った愛斗は、メイクを施し、髪型を整えられながら、心の中で何度も深呼吸を繰り返した。
収録が始まると、出演者はチームに分かれることになり、愛斗は「ベテランチーム」に配属された。メンバーは澤田知可子、小林明子、そして自分。夢にまで見た光景に、愛斗は自然と頬が緩み、わくわくが抑えられなかった。
最初のコーナーでは、各チームから好きな曲を選んで歌うことになった。知可子の代表曲「会いたい」が候補に挙がると、若い世代のチームが歌う番になった。愛斗は心の中で強く願った――どうか、知可子さん自身が歌ってくれますように。
すると、若手たちは互いに顔を見合わせて遠慮し、誰も手を挙げようとしない。それを見た知可子がくすりと笑い、「じゃあ私が歌っちゃおうかしら」と軽やかに立ち上がった。
柔らかく、しかし芯の通った歌声がスタジオに響き渡る。愛斗はただただ聞き入り、その一音一音に心を奪われていた。
続いて流行曲のコーナーになったが、知可子も愛斗も選ぶことはなく、ただ隣で彼女の姿を眺めているだけで幸せな気持ちになった。
やがて番組は「デュエットソング・メドレー」の特集へと移った。
流れてきたのは、澤田知可子と中西保志が歌った「幸せのドア」。候補者に知可子の名前が挙がり、男性パートを誰にするか司会者が悩んでいるのを見て、愛斗は迷わず勢いよく手を挙げた。
「私に歌わせてください!」
こうして愛斗は、憧れの知可子と並んでデュエットを歌うことになった。緊張で手に汗が滲んだが、彼女の柔らかい声に合わせているうちに、不思議と心が落ち着き、ただ歌う喜びだけが残った。
曲が終わり、司会の浜田が笑顔で話しかける。
「澤田知可子さんと末山愛斗さんで『幸せのドア』、素晴らしいハーモニーでした! 愛斗さん、この曲はドラえもんの主題歌でもありますが、ドラえもんがお好きなんですか?」
愛斗は少し照れながらも、はっきりと答えた。
「それもありますが、何より澤田知可子さんの歌が昔から大好きで、今日こうして一緒に歌えるなんて夢のようです。本当に憧れの存在なんです」
その言葉に知可子は柔らかく微笑み、愛斗の肩を軽く叩いてくれた。
こうして歌番組は幕を閉じたが、愛斗にとってこの日は、単なる仕事を超えた、人生の宝物のような一日になったのだった。
高校時代になると、さらに昭和歌謡に熱中し、植木等の「スーダラ節」やいしだあゆみの「ブルーライト・ヨコハマ」をよく口ずさみ、歌うことが日常の一部になっていた。
同世代の若手歌手や流行の音楽にはあまり興味が湧かず、いつも心惹かれるのは自分よりずっと年上の、歴史のある歌声たちだった。
時は流れ、愛斗は三十五歳になり、念願の演歌歌手としてデビューを果たした。所属するのは「虹色舎」という事務所だ。
ここはカラオケが大好きで歌に情熱を持つ人たちが集まり、ボーカルトレーナーであり社長兼マネージャーでもある翼の指導のもと、多くの歌手が育ってきた場所だった。
事務所には、演歌歌手の島あきのや亜蘭、作詞家の円香乃、編曲家の伊戸のりといった実力派たちが名を連ね、愛斗もその一員として日々歌を磨いていた。
そんな愛斗が今、心から憧れ、夢中になって追いかけている歌手がいた。
澤田知可子――シンガーソングライターとして活躍し、「会いたい」という曲が大ヒットした有名な女性歌手だ。すでに還暦を超えているというのに、その佇まいはいつまでも若々しく、美しさと気品に満ちている。
愛斗にとって、彼女は遠い存在でありながら、いつも心の支えになる憧れの人だった。
ある日のこと、愛斗は翼から事務所に呼び出された。
「愛斗くん、決まったよ。『ハマダ歌謡祭』に出演することになっわ」
「ハマダ歌謡祭ですか! 昔からよく見ています、夢みたいです」
翼は微笑みながら台本を手渡す。愛斗がそれを開き、出演者一覧に目を通した瞬間、息を呑んだ。
澤田知可子――その文字がはっきりと記載されていた。
「えっ、澤田知可子さんも出るんですか?」
「うん、そうだよ。他には小林明子さんなど、大物ぞろいだから緊張するだろうけど、がんばってね」
ページをめくると、確かに有名な名前が並んでいたが、演歌歌手は自分だけだった。それでも、憧れの知可子と同じ舞台に立てると思うと、胸は高鳴るばかりだった。
次の日、スタジオに入った愛斗は、メイクを施し、髪型を整えられながら、心の中で何度も深呼吸を繰り返した。
収録が始まると、出演者はチームに分かれることになり、愛斗は「ベテランチーム」に配属された。メンバーは澤田知可子、小林明子、そして自分。夢にまで見た光景に、愛斗は自然と頬が緩み、わくわくが抑えられなかった。
最初のコーナーでは、各チームから好きな曲を選んで歌うことになった。知可子の代表曲「会いたい」が候補に挙がると、若い世代のチームが歌う番になった。愛斗は心の中で強く願った――どうか、知可子さん自身が歌ってくれますように。
すると、若手たちは互いに顔を見合わせて遠慮し、誰も手を挙げようとしない。それを見た知可子がくすりと笑い、「じゃあ私が歌っちゃおうかしら」と軽やかに立ち上がった。
柔らかく、しかし芯の通った歌声がスタジオに響き渡る。愛斗はただただ聞き入り、その一音一音に心を奪われていた。
続いて流行曲のコーナーになったが、知可子も愛斗も選ぶことはなく、ただ隣で彼女の姿を眺めているだけで幸せな気持ちになった。
やがて番組は「デュエットソング・メドレー」の特集へと移った。
流れてきたのは、澤田知可子と中西保志が歌った「幸せのドア」。候補者に知可子の名前が挙がり、男性パートを誰にするか司会者が悩んでいるのを見て、愛斗は迷わず勢いよく手を挙げた。
「私に歌わせてください!」
こうして愛斗は、憧れの知可子と並んでデュエットを歌うことになった。緊張で手に汗が滲んだが、彼女の柔らかい声に合わせているうちに、不思議と心が落ち着き、ただ歌う喜びだけが残った。
曲が終わり、司会の浜田が笑顔で話しかける。
「澤田知可子さんと末山愛斗さんで『幸せのドア』、素晴らしいハーモニーでした! 愛斗さん、この曲はドラえもんの主題歌でもありますが、ドラえもんがお好きなんですか?」
愛斗は少し照れながらも、はっきりと答えた。
「それもありますが、何より澤田知可子さんの歌が昔から大好きで、今日こうして一緒に歌えるなんて夢のようです。本当に憧れの存在なんです」
その言葉に知可子は柔らかく微笑み、愛斗の肩を軽く叩いてくれた。
こうして歌番組は幕を閉じたが、愛斗にとってこの日は、単なる仕事を超えた、人生の宝物のような一日になったのだった。
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