年の差を超える恋歌
知可子たちは美波の露骨な発言に呆気に取られ、言葉も出ないまま顔を見合わせていた。その頃、隣の楽屋では美波が、同じく演歌歌手の友人・西山結愛と向かい合っていた。
美波は関根勤や美登里たちに知可子をかばわれ、自分だけが悪者扱いされたことを、悔しそうに結愛に打ち明ける。
「なによそれ、ムカつく! 喘ぎ声が聞こえるように大声で話したのはあのおばさんたちなのに、どうして私が悪者にされなきゃいけないの? 愛斗くんが好きだから、あんな声聞きたくなかっただけなのに! それなのに愛斗くんの名前を呼んで騒いでたって、あんなのひどいわ!」
結愛は眉をひそめ、美波の肩を叩いてなだめる。
「美波は悪くないよ。そういう人たちには、ちゃんと罰を与えないとね」
そう言って結愛は、知可子を困らせるための嫌がらせの方法を囁いた。美波はその言葉に、迷いなく頷いた。
しばらくして収録の時間が近づき、知可子が階段をゆっくりと降りていた。その時、背後から結愛が勢いよく走り寄り、知可子を強く突き飛ばした。
知可子はよろめき、そのまま階段の途中で転んでしまう。美波と結愛はそれを見て、くすくすと笑いながらその場を走り去った。
知可子は痛む足を堪えながら何とか立ち上がり、そのまま収録現場へ向かった。収録は滞りなく進み、最後に美波と知可子が『会いたい』をデュエットすることになった。だが美波は、大事な歌詞を何度も間違えてしまう。周りの出演者がフォローに入りながら歌い繋ぎ、なんとか撮影は終了した。
収録が終わり、美波と結愛が楽屋へ戻ろうとしたところを、関根勤が呼び止めた。
「おい、さっきの歌、歌詞間違えてただろ? わざとじゃなくても、ちゃんと謝りなさいよ」
「わざとじゃないんです!」
「でも間違えたのは事実だろ。ちゃんと反省して謝りなさい」
「……ハイハイ」
美波は投げやりな返事をすると、結愛と共に足早に立ち去った。
そのやり取りを聞いていた知可子は、関根勤に丁寧にお礼を言い、自分の楽屋へ戻った。楽屋には美登里と明子が待っていて、知可子がソファに座ろうとした時、美登里が声をかける。
「ちょっと、歩いてみてくれる?」
知可子が数歩歩くと、美登里はすぐに駆け寄る。
「足、引きずってるじゃない。どうしたの? ちょっと見せて」
スカートの裾をめくると、足首が青く変色していた。知可子は、階段で美波たちに突き飛ばされたことを打ち明けた。
美登里は知可子を強く抱きしめ、そのまま病院へ連れて行った。
検査の結果、骨折はしていなかったものの、ひどい捻挫だと診断され、湿布を貼り包帯を巻いてもらった。それから二人はゆっくりと家へ帰った。
家には誰もおらず、美登里は手際よく家事を始めた。
「いろいろ迷惑かけちゃって、ごめんね」
知可子が申し訳なさそうに言うと、ちょうど愛斗が帰ってきた。
「おかえり、愛斗くん」
「ただいま」
愛斗は美登里が家事をしているのを不思議に思いながらリビングに入り、足に包帯を巻いた知可子を見て驚いて駆け寄る。
「どうしたんだ? 怪我してるの?」
美登里が、階段で美波たちに突き飛ばされたことを詳しく伝えた。用事を済ませた美登里が帰った後、愛斗は知可子の足をそっと撫でながら尋ねる。
「足、痛くない? 大丈夫?」
「うん……でもね、階段から突き落とされただけじゃないの。今日だってわざと歌詞間違えてたし、前から無視されたり、みんなの前で私たちのことをバカにしたり……ずっと我慢してたの」
愛斗は知可子を腕に抱きしめ、真剣な目で見つめる。
「話してくれてありがとう。辛かっただろう。これからは、何か嫌なことされたらすぐに話して。絶対に俺が知可子を守るから、一人で悩まないでくれ」
「ありがとう……」
二人は優しくキスを交わし、愛斗はそのまま知可子を強く抱きしめ続けた。
美波は関根勤や美登里たちに知可子をかばわれ、自分だけが悪者扱いされたことを、悔しそうに結愛に打ち明ける。
「なによそれ、ムカつく! 喘ぎ声が聞こえるように大声で話したのはあのおばさんたちなのに、どうして私が悪者にされなきゃいけないの? 愛斗くんが好きだから、あんな声聞きたくなかっただけなのに! それなのに愛斗くんの名前を呼んで騒いでたって、あんなのひどいわ!」
結愛は眉をひそめ、美波の肩を叩いてなだめる。
「美波は悪くないよ。そういう人たちには、ちゃんと罰を与えないとね」
そう言って結愛は、知可子を困らせるための嫌がらせの方法を囁いた。美波はその言葉に、迷いなく頷いた。
しばらくして収録の時間が近づき、知可子が階段をゆっくりと降りていた。その時、背後から結愛が勢いよく走り寄り、知可子を強く突き飛ばした。
知可子はよろめき、そのまま階段の途中で転んでしまう。美波と結愛はそれを見て、くすくすと笑いながらその場を走り去った。
知可子は痛む足を堪えながら何とか立ち上がり、そのまま収録現場へ向かった。収録は滞りなく進み、最後に美波と知可子が『会いたい』をデュエットすることになった。だが美波は、大事な歌詞を何度も間違えてしまう。周りの出演者がフォローに入りながら歌い繋ぎ、なんとか撮影は終了した。
収録が終わり、美波と結愛が楽屋へ戻ろうとしたところを、関根勤が呼び止めた。
「おい、さっきの歌、歌詞間違えてただろ? わざとじゃなくても、ちゃんと謝りなさいよ」
「わざとじゃないんです!」
「でも間違えたのは事実だろ。ちゃんと反省して謝りなさい」
「……ハイハイ」
美波は投げやりな返事をすると、結愛と共に足早に立ち去った。
そのやり取りを聞いていた知可子は、関根勤に丁寧にお礼を言い、自分の楽屋へ戻った。楽屋には美登里と明子が待っていて、知可子がソファに座ろうとした時、美登里が声をかける。
「ちょっと、歩いてみてくれる?」
知可子が数歩歩くと、美登里はすぐに駆け寄る。
「足、引きずってるじゃない。どうしたの? ちょっと見せて」
スカートの裾をめくると、足首が青く変色していた。知可子は、階段で美波たちに突き飛ばされたことを打ち明けた。
美登里は知可子を強く抱きしめ、そのまま病院へ連れて行った。
検査の結果、骨折はしていなかったものの、ひどい捻挫だと診断され、湿布を貼り包帯を巻いてもらった。それから二人はゆっくりと家へ帰った。
家には誰もおらず、美登里は手際よく家事を始めた。
「いろいろ迷惑かけちゃって、ごめんね」
知可子が申し訳なさそうに言うと、ちょうど愛斗が帰ってきた。
「おかえり、愛斗くん」
「ただいま」
愛斗は美登里が家事をしているのを不思議に思いながらリビングに入り、足に包帯を巻いた知可子を見て驚いて駆け寄る。
「どうしたんだ? 怪我してるの?」
美登里が、階段で美波たちに突き飛ばされたことを詳しく伝えた。用事を済ませた美登里が帰った後、愛斗は知可子の足をそっと撫でながら尋ねる。
「足、痛くない? 大丈夫?」
「うん……でもね、階段から突き落とされただけじゃないの。今日だってわざと歌詞間違えてたし、前から無視されたり、みんなの前で私たちのことをバカにしたり……ずっと我慢してたの」
愛斗は知可子を腕に抱きしめ、真剣な目で見つめる。
「話してくれてありがとう。辛かっただろう。これからは、何か嫌なことされたらすぐに話して。絶対に俺が知可子を守るから、一人で悩まないでくれ」
「ありがとう……」
二人は優しくキスを交わし、愛斗はそのまま知可子を強く抱きしめ続けた。