手を、つないで 〜ふたりの未来〜
11.5 三上早苗
「ええー……」
あぜん、ぼうぜん、がくぜん、いや愕然は違うか。
余りにも電光石火。びっくり仰天雨あられ。
「いやあ、うん……とにかく、おめでとうございます」
「あの……ありがとうございます」
茉歩と、頭を下げ合うランチの席。
「あっでもまだ決まった訳じゃなくて、一緒に住んで、いいって思ったら、だからね」
「そんなのもう決まったじゃん。いいって思わなくてももう絶対離してくれないよ、あの人」
「えっ」
「無理無理無理。離してって言っても絶対に無理。もう結婚。はい決まり」
「ええー……」
今日は月曜日。酔い潰れた茉歩を松永さんに託したのは3日前の金曜日だよ?その時は、結婚なんてまだまだ、一緒に住む……?なにそれおいしいの?みたいな感じだったのに。週が明けたら『結婚します』だ?どんな早業だ三無い冷製鉄仮面。
予想はしてた。もしかしたら、一足飛びに結婚まで行くかもって。
だって、金曜日、酔っ払った茉歩を見た時の松永さんの顔!なにあの甘々な目!可愛くて仕方なくて、目に入れても痛くない、むしろ入れておきたいみたいな!
茉歩からちらっと聞いたところによると、松永さんは当初から付き合ってることを公表したがってたみたいだし、指輪とネックレスのこともあるし、同棲じゃ済まないかもなって。
まさか本当に結婚まで話が進むとは思わなかったけど。3日で!
目の前ではにかむ茉歩は、とっても可愛い。本当に幸せそうな笑顔。こんな可愛い子が主だなんて、あの大型犬も幸せね。ふさふさしっぽをぶんぶん振ってるところが見える。やっぱり新しいあだ名が必要だな。
そしてまっほー。そんな重大事項を、また私に真っ先に報告してくれた。もうさ、ほんと、改めて誓うよ。
一生友達‼︎‼︎
その後、ゆっくりと時間をかけて、2人の交際は、社内外に広まっていった。変な噂ややっかみなんかはほとんど無かった。それは、2人の普段の誠実な仕事ぶりが影響していると思われる。
特に茉歩。茉歩の癒しオーラの恩恵を受けているのは、主に普段接している女性社員。面倒見もいいので、木原さんを始め、多くの後輩に慕われている。松永さんも人気はあるけど、実は茉歩の方がファンは多かったのだ。
だからかどうか、なんの問題もなく、社内は通常通りだった。それに1番ほっとしていたのは茉歩だった。
昼休み、茉歩と2人で休憩スペースのカウンターでご飯を食べていた。近くのお弁当屋さんで買ってきたしょうが焼き弁当。生姜が効いていて、とってもおいしい。
「あ」
食べ終わって、そのままお茶を飲んでたら、後ろから声がした。
自販機のところに、高井戸さんと松永さん。
「お疲れ様です」
高井戸さんが軽く頭を下げる。私達も同じように挨拶した。
茉歩と松永さんは、目を合わせて微笑み合ってる。控えめに。
この2人、社内で会っても会話をしない。特に他人の目があるところでは。前に見た廊下での、あの神々しい雰囲気はレア物になってしまった。
「その弁当屋さんおいしいの?」
「おいしいですよ。食べたことないんですか?」
「ないなあ。できたばっかじゃん」
「1年は経ってますよ」
なんていう私と高井戸さんのどうでもいい会話を、黙って側で聞いている2人。
黙ってるんだけどねー、ぽわぽわいい雰囲気が漂ってくるんだよね。本人達は何もしてないのに。どういうことなんだか。
少し話して、高井戸さんと松永さんは去って行った。去り際、茉歩と松永さんは目線を交わし、ぽわぽわ何かを振り撒いていた。
うー幸せそう。あやかりたくて、茉歩を拝む。
「なあにいきなり」
茉歩が笑う。いい笑顔。
「あ、そうだ。ちょっと相談したいことがあるんだけど」
「なになに?」
「実はね、その……もうすぐ、1年なんだけど……」
「いちねん。なにが?」
茉歩は恥ずかしそうにもにょもにょ言う。
「お付き合い、始めてから」
「……えっ」
よく考える。あっそうか、そういえば。
「なんかもっと長く付き合ってる感じしてた」
「そう?」
「うん。だって『結婚』とか言ってるし」
茉歩は『結婚』に反応して顔を赤くする。可愛いのう。
「で?相談って?」
「あの、記念のプレゼントをね、何がいいかなって困ってて」
「ああ、なるほど」
聞いたら、最初はペアリングがいいなって思ってたんだけど、結婚することになったから、指輪はダブってしまうので、別の物にしたい、でもいい物が浮かばないんだそうで。
「まっほーがリボン付けたら、1番いいプレゼントなんじゃない?」
「ちょっと早苗ちゃん!」
「間違ってないと思うけどなー」
真っ赤になってむくれてる。うん、間違ってない。1番喜ぶと思う。
「まあまあ、ちゃんと考えるから。ね」
「……よろしくお願いします」
頭を下げて、上げたらいい笑顔。
私も笑顔になっちゃう。
まっほー、そのまんま、ずっと笑っててね。周りがみーんな幸せになれるからね。