手を、つないで 〜ふたりの未来〜
高井戸の観察日記
結婚とは。
夫婦になること。夫婦の縁を結ぶこと。婚姻。
「ふうん……」
スマホで検索している。
違う、これを調べたかったんじゃない。さっき松永から結婚するって話を聞いたから、それに引きずられてしまった。
背後の席の気配を探る。キーボードを打つ音。軽快。そう聞こえるのは、きっと結婚話を聞いたせいだ。冷静になればいつも通りの……そんなことないな、やっぱり軽快だ。
首をねじって半分ほど振り向く。背後の松永は、やっぱり機嫌がいいようだ。鼻歌でも出しそうな表情。でも俺が見てるのに気付いたら、いつもの仏頂面に戻った。
「……なんだよ」
地の底から響くような低い声。やだ怖い。
「いーえなんでも」
向き直って少しすると、やっぱり軽快にキーボードを叩き始める。
変わったな。ずーっと仕事ばっかしてるロボットみたいだったのに。それはそれでおもしろかったけど、人間になってもおもしろい。
彼女へのプレゼントで悩んでたのは春先だったか。スマホを見てはため息ついたりうなったりしてて、見えてしまった画面には女性向けファンシー小物のショップのサイト。え、彼女へのプレゼントならアクセサリーだろ。そう思って、改めて中森さんの姿を思い出す。
服装はシンプル。色も抑えめ。そういえばアクセサリーは付けてるのを見たことがない。
なるほど、松永的には、データが少なくてアクセサリーは選べない、と。
でも、俺のおすすめは。
「でもさ、アクセサリーって、おしゃれだけじゃないだろ」
きょとんとする松永。顔がいい。可愛く見える。
「牽制」
「あ……」
自分では思いつかなかったようだ。おいおい初心者じゃないよな。ああでもそうか、今までは相手から来るだけなんだったか。自分から行くのは初めてだって言ってたな、いや、無理矢理聞き出したんだった。
「静かな人気を誇る彼女には、必要なんじゃない?松永、独占欲強いみたいだし」
「は?」
図星だ。ごまかすために攻撃的になるのはもう知ってる。
「睨んでもダメです。わかります。時々俺にまでやきもちやいてんだろ」
中森さんと話してると、冷気が迫ってくるんだ。俺は全く心配いらないとわかっているのに、だ。
松永は無視してアジフライを食べてる。
「あの人が、指輪とまではいかなくても、普段つけないアクセサリーつけてたら、周りの奴らには充分だと思う。だから、俺のオススメは、アクセサリー」
一瞬松永の動きが止まった。注意深く観察してないとわからない、ほんの一瞬。多分決めたんだろう。
その時食べていたアジフライ定食は、松永の奢りになった。無言でレシートを持って行き、俺が財布を出そうとしたら、手で制された。松永先輩カッコいいです!惚れませんけど。
週明け。中森さんの首元と、右手の薬指に輝くアクセサリーがあった。俺が見ても似合ってて可愛い。松永には相当輝いて見えてるだろう。席立つ回数多いし。まあ今日は大目に見てやろう。