笑顔の可愛いキミは、俺にとって高嶺の花
 *

 
 8月。

 学校はすでに夏休みに突入したが、演劇部は活動していた。
 エアコンもまだ効いていない部室の鍵を開け、暑さから逃げるために空調のスイッチを入れる。
 暑さのこもる部室のせいで余計に汗をかき、体にシャツがぺったりとくっついている。
 
「あっちーな」

 夏休みの部活は強制ではなく自由参加だった。
 来たところでやることがあるわけでもない。
 適当にダラダラと過ごしていたり、練習していたり。
 来られる時に来る。
 うちの学校の演劇部は割と緩かった。
 別に来なくてもいい部活に俺が来る理由は一つ。

 
 暇だから。


「あれ、亮太だけー?」
 やっと空調が効き始めた部室に一人の女子がやってきた。
「香菜、きたのかよ」
「だって暇なんだもん」

 高嶺の花の来訪に胸が高鳴る。
 自分と同じ理由に運命さえ感じてしまう。
 勘違いも甚だしい。
 俺は気持ち悪い男だ。

「山下先輩ときたんじゃないのか?」
「あー……うん。今日、来てない」
 バツの悪そうな顔に何かあったのかと察する。
 詳しく聞いていいのか分からず、俺は軽く受け流した。

「そうか。……俺、今からホラゲするけど」
「え!見る!」
 香菜は目をキラキラと輝かせて俺の隣に座った。

 半分狙っていた。
 香菜はホラーゲームが大好きなくせに、やるのは苦手。
 見る専門のタイプだった。
 暇があれば動画サイトで実況動画を探していることも知っていた。

「今日は何やるの?」
「これ」
「……あー!このゲーム、グラフィック神だよね。え、見たいみたい、早く。」
「あ?あーわかったから、待てって」

 香菜は待ちきれないとでもいうように体を小刻みに揺らしながらニコニコと楽しそうにしていた。
 自然と俺の口角も緩む。
 こういうところは特に可愛いと思う。
 ゲームに対しても好感をもって話してくれるのはとてもありがたい。

 俺は香菜に見せるため、画面を二人の間に置いてゲームを始めた。
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