悪女の代行を演じたら氷の御曹司に永久就職⁉〜お見合い破談に大失敗!私は彼に丸め込まれ溺愛されてます~
格式だけが呼吸を許す場所それが代々の当主が暮らす邸宅で総漆塗りの和風建築と大理石がそびえ立つ洋館が融合した当主の館。

数百年続く一族の歴史の重みが漆黒の柱や美術品の数々に重々しく宿り贅を尽くした空間を満たしているのは美しさではなく他者を蹴落とし合ってきた人間たちの醜悪な執念がこもっている。

――いつ来てもこの家は吐き気がする。

「志遠、いい加減に往生際を悪くするのはやめなさい」

渡り廊下を駆け抜ける夜風さえも初夏にも関わらず冷たく、張り詰めた静寂のなかで彼は完璧な人形を演じていた。

「お前が婚約すれば我々一族の基盤は絶対に揺るがないものとなる」

叔父の重信が座卓をトントンと人差し指で叩く。
部屋の周囲には志遠を自分たちの都合の良い傀儡(かいらい)にしようと目論む一族たちが取り囲んでいた。

「一族ですか…」

くだらない。
本音はここに集まってる連中の私腹を肥やす目的だろ?
浅はかで効率も悪く人ばかりをあてにするクソみたいなやつら。

「この女性が鷹司舞(たかつかさ まい)さんだ。きちんとご挨拶をしなさい」

中央に座る彼女は整った綺麗な顔に笑みを浮かべ俺を見ている。
彼女にとってこの縁談は愛などではなく権力と資産を手に入れるための取引に過ぎなかった。

「初めまして、志遠です」

一切の隙がない笑みを浮かべ目の前の人間たちを人間とも思っていないほど冷え切った瞳で見つめ心はここにはなかった。

(老いぼれどもが…)

志遠は静かに反逆の引き金を引くタイミングを計りながら見ていた。

「一族の恥さらしどもが我が家で随分と大きな口を叩くではないか」

襖が左右に開き地を這うような圧倒的な威圧感とともに祖父が姿を現した。
一族の絶対的トップであり現当主の帰宅で部屋の空気が氷結し重信は慌てて立ち上がり揉み手をしながら歩み寄った。
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