後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「あたしだって、一緒だよ!あたしの旦那も兵士として、あっちにいるんだ。いつここに運び込まれてくるかって、毎日不安でしょうがないよ」
「そうよ。私はここの人間だけど、レイラちゃんはそうじゃないだろう?安全な場所から、その彼のためにこんなところまで来ちゃったんだから、すごいよ!」
「そうそう。旦那冥利に尽きるってもんだね!」
 そして、泣きそうな様子のレイラにたまらず飛び出してきた面々は、口々に言いたい事を言いつのる。

 突然飛び出してきた複数の人間に詰め寄られて、驚きのあまり目を丸くしていたレイラは、なんだか胸の奥から熱い思いがこみ上げてきた。

 薬師としての仕事は、この場所に来るための理由だった。
 だけど、来た以上はきちんと働こうと思ったのは、傷ついた人を癒したいと思う薬師の本能のようなものだった。

「……私、不安を誤魔化すために、みんなと向き合ってたのに……」
 それでも思わずネガティブな言葉がもれるのは、レイラ自身が始まりが不純な動機だと感じているからだ。

「それの何が悪いんだい」
 だけど、その言葉はあっさりと遮られた。

「レイラちゃんは、怪我人相手してるときは、きちんとその人だけ見てたじゃないか」
「そうそう。うちらはお医者さんじゃないからね。何の薬なのか、何の治療してるのかなんてなんも分かんないよ。でも、どんな仕事だって半端なことしてたら雰囲気で分かるもんだ。バカにするんじゃないよ」
「ワシらはレイラちゃんが頑張ってるのをちゃんと知っとるからな」
 胸を張る面々に、気がつけばレイラの頬を涙がぽろぽろと伝わっていた。

「こんなにレイラちゃんが頑張ってるんだもん。きっとその彼だって大丈夫だよぅ」
「そうそう!神様はちゃんと見てるさ!」
 慌てたように駆け寄ってきたおばちゃんが首にかけていた手ぬぐいでレイラの涙をぬぐい、もう一人が肩を抱いて励ましている。

 流れるような連係プレイに、いつの間にか輪の外にはじき出された青年の肩を、老医師が慰めるようにポンポンと叩いた。

「まぁ、最初のきっかけを作った勇気は表彰もんじゃ」
「ハハハ……」
 乾いた笑いをあげながらも、青年は涙をこぼしながらも微笑んでいるレイラにほっと肩を撫で下ろすのだった。



 その一幕の後、レイラは休憩時間には女性陣に囲まれることが増えた。
 いくつになっても、女性は恋話が好きなものなのだ。
 しかも、主人公はとびきりの美少女で、身分を隠して危険な戦場まで相手を追いかけてくるというドラマティックな物語。
 盛り上がらないわけがないのである。

 レイラも、さすがに相手の正体を話すわけにもいかないけれど、聞き上手のおばちゃん集団にちょこちょことなれそめなどをオブラートに包みながらも漏らしてしまったのはしょうがない事だった。
 やがて、その物語はほんの少しの脚色を加えながらも素敵な恋物語として広がっていくのであった。



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