後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「まぁ、ここまではなかなか情報が届かないし、気になるよね。かといって、戦時中に下手に様子を窺いに行ったら敵兵の斥候だと勘違いされそうだしなぁ」
 ちょっと困ったように肩を竦めるディアンに、マリオンも顔を俯かせた。

「私の身元を証明するものを持っていかせても、拾ったと言われたら反論できないでしょうし、手紙も、今の混乱時では私の筆跡をはっきりと判断できる者もいないでしょう。フィリアスが行ってくれたらいいけれど、本人が納得してくれないですし……」

 頭が痛いというように顔をしかめるマリオンに最後の包帯を巻きつけたディアンは、慰めるように肩を叩く。
「まぁ、この調子なら後十日もすれば歩くのに支障はなくなるはずだ。その時は、心配だし僕もついていくから、ゆっくり帰ろう」
「はい。ありがとうございます」

 励ましの言葉に礼を言って、マリオンはその日からゆっくりと体を動かし始めた。
 最初は、ベッドの側に立ち上がる所から。
 情けない事に、すぐに体がふらついて倒れそうになり、横に控えていたフィリアスを慌てさせた。

 二人が思っている以上に、マリオンの体に入った毒の影響は大きく、少しでも無理をすれば回転性の眩暈が襲ってきた。
 焦りは禁物と自分に言い聞かせて、苦い薬を飲みながらゆっくりと体を慣らしていくしかない。

 まずは、ベッドサイドに立つところから。
 1分間ふらつかずに立つ事ができるようになったら、次は慎重に壁まで歩く。
 普通なら5歩も歩けば辿り着くはずの壁は、そのころのマリオンにとって途方もない距離に見えていた。

 それでもめげることなく続ける事ができたのは、献身的に支えてくれるフィリアスと諦めずに探しているであろう仲間達、そして何よりもヤキモキしているであろうレイラの顔が脳裏に浮かんでいたからだった。

 そうして、ついに小屋の周りを問題なく歩き回れるようになり、軽い素振りを始めたのは、ディアンの予想通り10日後の事だった。



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