後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「本当に先生も一緒に来るんですか?」
 フィリアスが交渉の末、手持ちのナイフとマリオンの体から出てきた矢じりと交換で手に入れてきた食料入りの袋を手にマリオンは少し困ったように首を傾げた。

「うん。乗り掛かった舟だし、そのブレスレットをつくった子も気になるしねぇ」
 そんなマリオンの困惑顔などどこ吹く風で、ディアンが笑顔で背中に背負ったリュックをゆすり上げた。中には愛用の道具が詰まっている。

「イイダシたら、ヒカない。止めるだけムダ」
 どこかあきらめたような瞳でつぶやくベックもまた旅装に身を包んでいる。
 マリオンにはどういう契約になっているのかは分からないが、ディアンの護衛をしているベックも、共に行く事になっていた。

「まあ、正直森に慣れているベックがいっしょに来てくれるのはかなりありがたい。俺たちだけならただ川を辿るしかなかったから」
 やみくもに川を流されてきたフィリアスは、現在地がどこなのか認識していなかった。
 とりあえず大まかな方角を見ながら、川の流れを辿っていこうと考えていたのだ。

 マリオンの看病をしながらも、どうにか村人から情報を得ようと努力はしていたのだが、警戒心の強い村人は、そもそも近くに寄ろうとすると逃げて行ってしまう。
 よそ者の自覚があるフィリアスも、無理に追いかけ回してこれ以上立場を危うくすることもできず早々に諦めた。

 そもそもディアンやベックにも質問したのだが、村の正確な位置を教える事は掟に反すると口をつぐんでしまう。
 村長にかけあって物々交換で革袋や食料を分けてもらえただけでも僥倖だったのだ。
 森の中で質のいい鉄製品は貴重だったようで、フィリアスのナイフはもちろん、マリオンの体内から取り出した矢じりも良い取引材料となった。

「場所を教える事はできないけど、僕が一緒に出ていく分には問題ないからね」
 ニヤリと笑いながら歩き出したディアンを、マリオンは慌てて追いかけた。
「でも我らのせいでディアン殿の立場が悪くなるのではないかと思うと……」
「僕の立場?」
 眉を下げるマリオンに、ディアンはきょとんとした顔で首を傾げた。

「ディアン、すきなトキ村に来て、すきなトキ村をさる」
 見つめあう二人の横を、ベックがさっさと通り過ぎ、先に立つ。
「ミンナ気にしない。いつものこと」
「だね。礼の薬はたっぷり置いてきたし、問題ないよ。あ、でも戻るときに適当な手土産を持たせてもらえたら格好着くかな?」
 うんうん頷くディアンに、マリオンは肩の力を抜いた。

「命の礼もある。私に手に入れられる物なら、何でも用意しよう」
「だってさ。ベック君、なんかおねだりするもの考えておこう」
 生真面目な表情のマリオンに対して、ディアンの反応はあくまでも軽い。
 それに振り返りもせずに小さく鼻を鳴らすベックも相当だが……。

「行こう。みんなが待ってるはずだ」
「……ああ」
 フィリアスに軽く肩を叩いて促され、マリオンは小さく頷くと足を踏み出した。

(今から帰るよ、レイラ。待っててくれ)



< 105 / 124 >

この作品をシェア

pagetop