後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 戦場で、王子は勇敢に戦った。
 しかし、ある月のない夜に敵から背後を突かれて、その戦いの最中で行方不明になってしまう。

 知らせを受けたお姫様は、涙を流す前に、すぐさまお城を飛び出した。
 ちょうど城下から救援の物資を運ぶ一団が出発しようとしており、お姫様は町娘の姿でそこへ潜り込んだのだ。

 そして、医師の助手という立場を手に入れたお姫様は、危険な最前線の医療所で働きながら、王子様の帰りを待ち続けた。

 平民のふりをしたお姫様は、誰よりも一生懸命に働いた。
 愛しい人の無事を願いながら、傷ついた兵を癒やし、疲れた仲間を励ます日々。

 そんな一生懸命なお姫様に励まされて、戦場の中にありながら人々は希望と笑顔を思い出していく。

 その一方、行方不明の王子様は。
 親友を庇って矢を受けた王子様は、川に落ちて国境の森の中へと流されていた。

 王子様を追いかけて飛び込んだ親友の尽力で、どうにか這い上がる事はできたものの、射られた矢には毒が塗られていたのだ。

 絶体絶命の王子様を救ったのは、偶然通りがかった旅の薬師だった。

「王子が着けているのは、我が一族に伝わる愛を誓う腕輪です。一族に縁ある人を、助けないわけにはいきませんから」
 何も持たない自分たちを助ける薬師を疑う親友に、薬師はそう言って笑った。

 そうして、深い森の中、偶然の出会いに助けられて傷を癒した王子は、お姫様の待つ砦へと戻ることができたのだった。

「貴女のお守りに助けられた」
「ずっと無事を祈っていました。また会えて、こんなに幸せな事はありません」
 涙ながらに抱きしめ合う2人に、周囲の人もまた涙で祝福を送った。

「このくだらない(いくさ)を今度こそ終わらせてくる」
 そうして、再び戦場へと戻った王子様は勇敢に戦い、ついに勝利をもぎ取ったのだった。




 愛する人との未来を手にするために勇敢に戦った王子様と、我が身の危険を顧みず駆けつけて、王子の無事を見届けた後も、傷ついた兵士のために身を粉にして働くお姫様の話に人々は熱狂した。

 その裏で「美化されすぎ〜〜」と真っ赤に頬を染めて叫んだ誰かがいたとかいなかったとか………。
< 112 / 124 >

この作品をシェア

pagetop