後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「どうしたもの、かしら?」
 手に入れた情報を素直にレイラに伝える気には到底なれなかった。
 少なくとも、第三者の口から伝えるのは、なんだか違う気がした。

「………とりあえず静観の構えで」
 ユリアはポツリと呟いた。
 そう、これは決して問題を放り投げたわけでも逃げたわけでもない。

(だって本人(レイラ様)から、まだ何も言われてないし……)
 いくらメイドスキルを磨いても、いろんな話を聞いて耳年増になっていたとしても、所詮ユリアとて20にもならない若輩者だ。
 実体験もないのに、先を読むのは難しい。

(起きてない問題を突つき回しても、ややこしくなるだけだって先輩方もおっしゃってたことだし)
 潔く棚上げを決め込んだユリアは、清々しい気持ちで扉に手をかけ、次の瞬間、盛大にむせた。

 部屋の中から怪しげな煙が溢れ出してきたのだ。

「ちょっ!レイラ様?!」
 慌ててハンカチで口を押さえつつ、果敢にも部屋の中に滑り込むと扉を閉めた。

 この匂いを、廊下の方へと溢れさせるわけにはいかない。
 いくら外れとはいえ、絶対に異臭騒ぎが起きる。

「レイラ様!|今度は(・・・)何をされてるんですか?!」
 とりあえず、発生源を突き止めるため、いささか煙で霞む視界の中を進めば、予想通りキッチンで何やら怪しげな鍋を煮詰めるレイラの背中を見つけた。

「あ、お帰りなさい。なんか横になってたら落ち着いてきたし、新しい薬でも、と思って」
「に、してもこの煙はやりすぎです!警備兵が何事かと飛んできますよ?!」

 のほほんと振り返ったレイラに、ユリアが睨みを利かせて叫んだ。
 もっとも、煙がしみて涙目になっているため、迫力など皆無だが。

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