後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「そんなに酷い?」
 おそらく徐々に匂いが強くなったため、本人的には耐性がついてなんともないのだろうと思いつつ、ユリアは無言で庭に面する窓を開いた。

 このまま森の方へと吹く風に乗ってくれれば、騒ぎにならず換気もできるだろう。本日の風向きに心から感謝だ。

「新薬の実験は慎重に、かつ外でして下さいといつも言っているのに……」
 少し薄れてきた煙にほっと肩を落としつつユリアがぼやけば、レイラは素直に「ごめんなさい」と頭を下げた。

「前に、もっと強い痛み止めは出来ないかって頼まれてたの思い出しちゃって。今まで作ってたものをもう少し煮詰めて濃くしたらどうかな〜〜って思いついたら、やりたくなっちゃって」

「成分だけ濃くしたってしょうがないでしょう?そんなのでよければ、先人がとっくに道を作ってますよ」
 あんまりな理由に思わず反論した次の瞬間、ユリアは自分の失敗を悟った。

「そうなのよ!だからね、そこにこの間見つけたあの薬草を足して……」
 キラキラした瞳で語り出したレイラに、ユリアは諸手を挙げて降参した。

「残念ながら詳しいお話を聞いても、私では理解できません。勘弁して下さい」
 肩を落として、煙の被害にあった他の部屋の換気をする為にその場を逃げ出した。

 本格的に匂いが染み付く前に、どうにかしてこの煙を外に追い出さなくてはと、すでにユリアの頭はそのことで一杯になっていた。

「もう!話くらい聞いてくれてもいいのに!」
 唇を尖らせて文句を言いはしても、火にかけた鍋のそばを離れるわけにはいかないレイラが、その背中を追いかけることはない。
 そもそも、下手に後を追ったら異臭騒ぎの説教を聞かされるのは確実だ。

「さ、ユリアが我に返る前に、この薬を完成させてお説教から逃げる手を考えなくっちゃ」
 ついうっかり「新薬実験は外のカマドで」との約束を忘れたのは自分だが、素直にお説教される気にはなれない。

「コリンの実を入れたから、煙に虫除け効果もある筈だし、そっちの線で押せばいけるかしら?」
 言い訳をブツブツと呟きながら鍋をかき混ぜる様子は、遠目に見れば、まさに絵本の中の魔女そのものだった。

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