後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 もちろん、そんな事とは関係なく利に聡い者たちはいる。
 それは、国に縛られない商人達だ。

 明らかな泥船に、乗る意味などない。
 残るとしたら、腐りかけの果実の甘い汁をギリギリまで吸おうとする武器商人ぐらいの物だろう。

「あいつらはハイエナさ」
 プカリとたばこの煙を吐き出して、年輩の男は言った。

「あぁな、馬鹿な王様の治める国は大変だな」
 たまたま酒場で知り合った男の話に、マイクは苦笑しながら酒瓶を傾け男のグラスを満たした。

 レイラから薬を受け取った後すぐ、マイクは国境近くの町へと足を向けた。
 その途中の宿屋で、隣国から逃れてきたという商人と知り合ったのだ。
 いろいろとうっぷんが溜まっていたらしい男は、酒と共に話を聞けば、いろいろと話してくれた。

「俺は流れの一人者だから、すぐに抜け出せたけどな。家族持ちの奴らはそうもいかない。これから大変だろうけど、俺にはどうしてやることもできないしな」
 酔いとともに泣き出した男の話は、確かに当事者にしてみればたまったものではないだろう。

(治める上が違うと、こうも変わるもんかね?)
 自国の生活を思うとしみじみ感謝したくなる。

「ちょっと前まではあんな国じゃなかったんだがな」
 同じことを思ったのか男のボヤキは止まらない。

「しかし、これは、本当に戦が始まりそうだな」
「そうなるだろう。俺がいた時は、まだ一応任意だったけど徴兵が始まってたし、王都に向けて人が集まっていってたからよ」
 赤い顔で男は机の上に突っ伏した。

「中には、飢饉の酷い地域から、ふらふらになりながら来てるやつもいたよ。兵士になれば明日戦で死ぬかもしれなくても、今日飢えで死ななくてすむからな・・・・・・」
 小さくつぶやかれた言葉の悲惨さにマイクは顔をしかめた。
 結局、ひどい目に遭うのは底辺の平民なのだ。

「ああ、いやな戦だ。こうなったらさっさと始まって、さっさと終わってくれればいい・・・・・」
 吐き捨てるように呟く言葉を最後に、男はついに眠り込んでしまった。

「ああ、飲ませすぎたな。まあ、部屋に放り込んどけばいいか」
 赤い顔でピクリとも動かなくなった男にため息を一つこぼすと、マイクは残っていた酒をあおった。

 どちら側にいたとしても、戦(いくさ)は嫌な気持ちを持ってくる。
 それを飯の種にするには、マイクの感性は真っ当すぎたようだ。

「あれを持っていったら、さっさと王都に戻ろうかね」
 レイラから格安で譲り受けた薬の数々を思い浮かべ、マイクは苦笑した。
 あのかわいらしい少女の思い人が、傷つくことなく無事に戻ってくる手助けに少しでもなればいい。

「ダメもとで本丸にでも持って行ってみるかね。もしかしたら、レイラちゃんの思い人の噂でも拾ってこれるかもしれんし」
 軽い気持ちで起こした行動に、度肝を抜かれることになるのは、もう少し後のことである。
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