後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「捜索をあきらめる事は無いと誓います。ですが、何事も絶対はありません。無事を祈りながら、覚悟を決めなさい。無様をさらすことは許されません」

 無の表情で言い切る王妃の顔を、レイラはただ見つめた。
 そして、その瞳の奥に苦悩の色を見て取ると、黙って頭を下げて退室した。

 血のつながりはないとはいえ、幼いころより見守ってきたわが子の一人である。
 辛くないわけがない。

 しかし、母である前に彼女は王妃なのだ。
 私事に走り、国を乱すわけにはいかない。
 その覚悟を、レイラはしっかりと見て取った。
 そして、自分にも同じ覚悟を求められているのだということまで・・・。

 だけど・・・・・・。

「最悪を想定して覚悟を決めるのも確かに大切だわ。だけど、部屋に座り込んでただ無事を祈っているだけなんてまっぴらよ。
 私は大人しいお姫様なんかじゃないもの」

 自室への道をたどりながら、レイラは自身に言い聞かせるように呟いた。

「どんなに苦しい状況だって、私は自分で道を見つけてきたわ。
 周りから見たら愚かな選択だったかもしれないけれど、後で悔いるくらいなら今の苦労をとる。・・・・・そうやって、ここまで来たんだもの」

 まっすぐに背を伸ばし前に進む背中を追いかけながら、ユリアは小さくため息を吐いた。
 王妃の部屋から出てきたレイラの顔は、何かを決めた時のものだった。
 あの顔をしているとき、けしてレイラはあきらめない。

 初めてレイラに仕えた頃、虐待かとも思えるような無茶な教育の詰め込みに眉を顰めるユリアに「大丈夫」と笑って見せた時。

 無茶を押し付けた挙句、実質の縁切り状へサインをさせられた時。

 知り合いの一人もいない国で、荒れた部屋に追いやられた時。

 短くない時間をユリアは、年下の小さな主人と共に過ごした。
 そばかすの目立つやせっぽっちの少女が、まるで蛹が蝶に羽化するかのように美しく成長しても、主人の本質はちっとも変わらない。

 それが、嬉しいような困るような・・・・。

 複雑な思いを抱えながら、今度はどんな無茶を始めるのかと思案しつつ、その背中を追いかけるユリアの口元が小さくほころんでいたことを、ユリア自身すら気づいてはいなかった。
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