後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「……なんで」
先ほどまで本気で殺気を向けられていた相手からの親切に、フィリアスの口から意図せず疑問が飛び出る。
フィリアスの声に不思議そうに首を傾げた後、ベックは、動かないフィリアスに代わり包帯を手に取った。
「ケガやヤマイには、清潔がタイセツ。ディアンがウルサクいう」
意外なことにくるくると慣れた手つきで包帯を巻き付けていくベックに、フィリアスは目を見張る。
それは、間違いなく熟練された手つきだった。
「ディアンがウケイレ、助けるとキメタなら、したがう」
最後に巻きつけた包帯が解けないようにキッチリと折り込むと、ベックは自分の肩にもたれさせるようにして座らせていた意識のないマリオンの体を横たえる。
その仕草は、傷ついたマリオンの体を痛ませないようにという配慮に満ちていて、フィリアスはようやく肩の力を抜いた。
ほんの僅かに残っていた猜疑心が、消えていった瞬間だった。
「オマエも身体をフイテ、ヤスムとイイ。痛むところがアルなら、薬もアル」
机の上を示されて、そこに積まれてあるものは自分の分も含まれているのだと気づいたフィリアスは、素直に頭を下げた。
「ありがとう。使わせてもらうよ」
「………レイはフヨウ。オレはディアンのケッテイにしたがったダケ」
ツンっと顔を逸らしてベックは部屋を出ていってしまった。
しかし、日に焼けていて分かりにくいが、褐色の耳がほんのり赤く色づいているのを見てとって、フィリアスはこっそりと笑った。
(彼はずいぶん優しい人らしい)
最初の出会いこそ物騒だったが、それも見知らぬ人物を警戒してのことだったのだろう。
敵を排除しようとするのは、生物として当然の行動だ。
フィリアスは机に向かうと2人分にしても余裕を持って置かれた着替えや布に目を細め、ありがたく利用させてもらう事にした。
まずは何よりも先に、グッタリと意識のないマリオンの体を清め、汚れたシーツと衣類を整えた。
気のせいか、先ほどより表情が和らいでいる気がして、フィリアスはそっと安堵の息をついた。
マリオンの意識が戻らない以上、まだ完全に安心はできないが、少なくとも最悪は脱したと言って良いだろう。
それからフィリアスは、ようやく自分のことに取り掛かった。
濡れた衣服を脱ぎ捨てると、川を流れるうちに岩にぶつかってできた打ち身に軟膏を塗り、着替えをする。
全てを終え顔を上げると、いつの間にか同じ部屋の片隅に、干草の上にシーツを重ねただけの簡易的なものではあるが、ちゃんとした寝床が出来上がっていた。
全く気が付かなかった自分の気の緩みに呆れながらも、フィリアスは再び目を細めることとなった。
なぜ助けてくれたのか。
疑問はあったが、それを追求するには、フィリアスも疲れすぎていた。
身を投げ出すように、用意された寝床に倒れ込む。
「ああ………、良い香り……」
小さな呟きと共に、フィリアスの意識は闇にとけた。
先ほどまで本気で殺気を向けられていた相手からの親切に、フィリアスの口から意図せず疑問が飛び出る。
フィリアスの声に不思議そうに首を傾げた後、ベックは、動かないフィリアスに代わり包帯を手に取った。
「ケガやヤマイには、清潔がタイセツ。ディアンがウルサクいう」
意外なことにくるくると慣れた手つきで包帯を巻き付けていくベックに、フィリアスは目を見張る。
それは、間違いなく熟練された手つきだった。
「ディアンがウケイレ、助けるとキメタなら、したがう」
最後に巻きつけた包帯が解けないようにキッチリと折り込むと、ベックは自分の肩にもたれさせるようにして座らせていた意識のないマリオンの体を横たえる。
その仕草は、傷ついたマリオンの体を痛ませないようにという配慮に満ちていて、フィリアスはようやく肩の力を抜いた。
ほんの僅かに残っていた猜疑心が、消えていった瞬間だった。
「オマエも身体をフイテ、ヤスムとイイ。痛むところがアルなら、薬もアル」
机の上を示されて、そこに積まれてあるものは自分の分も含まれているのだと気づいたフィリアスは、素直に頭を下げた。
「ありがとう。使わせてもらうよ」
「………レイはフヨウ。オレはディアンのケッテイにしたがったダケ」
ツンっと顔を逸らしてベックは部屋を出ていってしまった。
しかし、日に焼けていて分かりにくいが、褐色の耳がほんのり赤く色づいているのを見てとって、フィリアスはこっそりと笑った。
(彼はずいぶん優しい人らしい)
最初の出会いこそ物騒だったが、それも見知らぬ人物を警戒してのことだったのだろう。
敵を排除しようとするのは、生物として当然の行動だ。
フィリアスは机に向かうと2人分にしても余裕を持って置かれた着替えや布に目を細め、ありがたく利用させてもらう事にした。
まずは何よりも先に、グッタリと意識のないマリオンの体を清め、汚れたシーツと衣類を整えた。
気のせいか、先ほどより表情が和らいでいる気がして、フィリアスはそっと安堵の息をついた。
マリオンの意識が戻らない以上、まだ完全に安心はできないが、少なくとも最悪は脱したと言って良いだろう。
それからフィリアスは、ようやく自分のことに取り掛かった。
濡れた衣服を脱ぎ捨てると、川を流れるうちに岩にぶつかってできた打ち身に軟膏を塗り、着替えをする。
全てを終え顔を上げると、いつの間にか同じ部屋の片隅に、干草の上にシーツを重ねただけの簡易的なものではあるが、ちゃんとした寝床が出来上がっていた。
全く気が付かなかった自分の気の緩みに呆れながらも、フィリアスは再び目を細めることとなった。
なぜ助けてくれたのか。
疑問はあったが、それを追求するには、フィリアスも疲れすぎていた。
身を投げ出すように、用意された寝床に倒れ込む。
「ああ………、良い香り……」
小さな呟きと共に、フィリアスの意識は闇にとけた。