桜舞う空に、私の初恋がほどけていく。

第1章:蛙化のち、真っ赤な嵐

「恋」なんて、案外くだらないことで終わりを迎えるものだ。

小学一年生の入学式。隣の席で、緊張して泣きそうだった私に「これあげる」と、クシャクシャの折り紙の飛行機をくれた颯太。
それから丸四年、私の世界はいつも颯太を中心に回っていた。不器用だけど真っ直ぐな彼にずっと片思いをしていたのだ。

けれど、小学四年生の冬。それは本当に突然だった。
放課後、教室の後ろで颯太が友達とふざけ合いながら、鼻の穴に思いっきり鉛筆を突っ込んで「新種のイカ!」と叫んだのだ。

(……あ、無理)

あんなにキラキラして見えた颯太が、一瞬で色褪せた。これが今どきの言葉で言う『蛙化現象』というやつらしい。私の長すぎた初恋は、新種のイカによって呆気なく幕を閉じた。


――それから、3年後。
中学校の入学式で、私は新しい恋に落ちた。

クラス発表の掲示板の前。人混みに押されてよろめいた私を、「っと、危ね」と支えてくれた男の子がいた。
それが、湊だった。
整った横顔に、少しハスキーな声。一目惚れだった。

だけど、すぐに残酷な噂を耳にする。湊には、他校に通う「溺愛している彼女」がいるらしい。携帯の待ち受けを愛おしそうに眺めては、毎日デレデレしているのだとか。

(なんだ、彼女持ちか……)

失恋モードの私だったけれど、おかしなことはすぐに起きた。
授業で湊とペアになったとき。教科書を覗き込もうと少し顔を近づけると、湊が「あっ」と小さく声を漏らした。
見ると、湊の顔が耳まで真っ赤に染まっているのだ。

「みなと、くん……?」
「あ、いや……なんでもないっ!」

湊はガタッと椅子を鳴らして、大慌てで顔を背けてしまった。
それからも、廊下ですれ違って目が合うたび、彼は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

溺愛する彼女がいるはずなのに、どうして私の前でそんな顔をするの?
思わせぶりな彼の態度に、私の心は激しく揺れ動いていく。

そして、この奇妙な片思いに、あの「イカ男」が再び絡んでくるなんて、この時の私はまだ知る由もなかった。
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