銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした
これからの「私たち」
【エリーゼ視点】
私たちは、賑やかな大通りに面した小さな宿屋を、これからの拠点として借りることにした。
部屋は、今回はそれぞれ隣同士で二部屋。あの国境の夜のドギマギを経て、さすがにレオンが「お前の身の安全(と、俺の理性の安全)のためだ」と譲らなかったからだ。
部屋に荷物を置き、ひと息ついたところで、私はレオンの部屋の扉を叩いた。
「レオン、ちょっとこれからのこと、相談してもいい?」
「ああ、入れ」
部屋に入ると、レオンは窓辺で旅の地図を広げていた。
「リベルタの街は気に入ったか?」
「ええ、最高よ! でもね、レオン。私、ただ前世の夢を叶えて遊び回るだけじゃなくて、ここで『自分で稼ぐ力』を身につけたいの」
私の言葉に、レオンは驚いたように銀色の耳を動かした。
「稼ぐ、だと? 旅の資金なら、お前が公爵家から持ち出した金貨がまだ十分にあるはずだが」
「それはそうなんだけど……。私、前世では誰かに生かしてもらうだけ、消費するだけの存在だったの。でもこの世界では、自分の力で誰かの役に立って、その対価として生きていきたい。公爵令嬢のエリーゼでもなく、前世の病弱な私でもない、本当の意味で『自立した人間』になりたいのよ」
それに、と私は心の中で付け足す。
いつまでもレオンに「雇い主と護衛」という関係で甘えていたくない。彼と対等な立場で、ずっと一緒にいたいから。
「……お前は、どこまで強い令嬢なんだ」
レオンは呆れたような、けれど深い感銘を受けたような目で私を見つめ、ふっと笑った。
「分かった。お前がそう望むなら、俺も全力で手伝おう。幸い、この街には様々なギルドがある。お前の『回復魔法の応用』や、薬草の知識を活かせる仕事が必ず見つかるはずだ」
「本当!? ありがとう、レオン!」
嬉しくて、私は思わずレオンの手を握りしめようとして――お互いにハッとして、少しだけ手を引っ込めた。
意識していないと言えば、嘘になる。
レオンが私を守ってくれる時の逞しい腕も、時折見せる優しい琥珀色の瞳も、今の私にとっては、世界中のどんな宝物よりも特別で、胸を熱くさせるものだ。
けれど、焦る必要はない。
私には、前世で失った「時間」が、この世界には無限にあるのだから。
ゆっくり、ゆっくり、この街で新しい生活を築きながら、レオンとの関係も育てていければいい。
「よし! 明日はさっそく、商業ギルドに行ってみましょう!」
「ああ。明日の朝は、俺が叩き起こしてやる」
窓の外には、紫色の美しい夜の帳が下りつつあった。
私たちはまだ、お互いの気持ちに明確な名前をつけてはいない。けれど、繋いだ袖の温もりと、交わした視線の熱が、二人の未来を確かに優しく照らしていた。
私たちは、賑やかな大通りに面した小さな宿屋を、これからの拠点として借りることにした。
部屋は、今回はそれぞれ隣同士で二部屋。あの国境の夜のドギマギを経て、さすがにレオンが「お前の身の安全(と、俺の理性の安全)のためだ」と譲らなかったからだ。
部屋に荷物を置き、ひと息ついたところで、私はレオンの部屋の扉を叩いた。
「レオン、ちょっとこれからのこと、相談してもいい?」
「ああ、入れ」
部屋に入ると、レオンは窓辺で旅の地図を広げていた。
「リベルタの街は気に入ったか?」
「ええ、最高よ! でもね、レオン。私、ただ前世の夢を叶えて遊び回るだけじゃなくて、ここで『自分で稼ぐ力』を身につけたいの」
私の言葉に、レオンは驚いたように銀色の耳を動かした。
「稼ぐ、だと? 旅の資金なら、お前が公爵家から持ち出した金貨がまだ十分にあるはずだが」
「それはそうなんだけど……。私、前世では誰かに生かしてもらうだけ、消費するだけの存在だったの。でもこの世界では、自分の力で誰かの役に立って、その対価として生きていきたい。公爵令嬢のエリーゼでもなく、前世の病弱な私でもない、本当の意味で『自立した人間』になりたいのよ」
それに、と私は心の中で付け足す。
いつまでもレオンに「雇い主と護衛」という関係で甘えていたくない。彼と対等な立場で、ずっと一緒にいたいから。
「……お前は、どこまで強い令嬢なんだ」
レオンは呆れたような、けれど深い感銘を受けたような目で私を見つめ、ふっと笑った。
「分かった。お前がそう望むなら、俺も全力で手伝おう。幸い、この街には様々なギルドがある。お前の『回復魔法の応用』や、薬草の知識を活かせる仕事が必ず見つかるはずだ」
「本当!? ありがとう、レオン!」
嬉しくて、私は思わずレオンの手を握りしめようとして――お互いにハッとして、少しだけ手を引っ込めた。
意識していないと言えば、嘘になる。
レオンが私を守ってくれる時の逞しい腕も、時折見せる優しい琥珀色の瞳も、今の私にとっては、世界中のどんな宝物よりも特別で、胸を熱くさせるものだ。
けれど、焦る必要はない。
私には、前世で失った「時間」が、この世界には無限にあるのだから。
ゆっくり、ゆっくり、この街で新しい生活を築きながら、レオンとの関係も育てていければいい。
「よし! 明日はさっそく、商業ギルドに行ってみましょう!」
「ああ。明日の朝は、俺が叩き起こしてやる」
窓の外には、紫色の美しい夜の帳が下りつつあった。
私たちはまだ、お互いの気持ちに明確な名前をつけてはいない。けれど、繋いだ袖の温もりと、交わした視線の熱が、二人の未来を確かに優しく照らしていた。