銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした
【エリーゼ視点】
食堂を出ると、すっかり夜の帳が下りていた。
ランタンの優しい光が灯るリベルタの並木道を、私たちは宿屋に向かってゆっくりと歩いていた。
お腹はいっぱい。胸も、いっぱいで。
私はふと、自分の歩幅に合わせて、わざとゆっくりと歩いてくれているレオンの足元を見た。
彼の右脚は、もう完全に動いている。一時は奴隷市場で「壊れた犬」とまで罵られたその脚が、今は私の隣で、力強く地面を踏みしめている。
「レオン」
「ん?」
「私ね、思うの。私がこの世界に悪役令嬢として転生したのって、きっと……あなたに出会うためだったんだわ」
立ち止まり、振り返ってそう告げると、レオンも足を止めた。
夜風が私たちの間を吹き抜け、彼の銀色の髪を優しく揺らす。
「婚約破棄された時は、ただ『自由になりたい』って思っていた。でも、リベルタで自分の力で生きて、あなたとこうして美味しいものを食べているとね……私を暗闇から引っ張り出してくれたのは、この世界のシステムじゃなくて、レオン、あなたなんだって気づいたの」
まだ、これが「恋」だとはっきり口にするには、私は臆病すぎるかもしれない。
前世で愛を知らずに死んだ私にとって、この胸のときめきは、あまりにも眩しくて、大切に扱いたい宝物だから。
けれど、これだけは確信を持って言える。
「私、あなたに出会えて、本当に幸せよ」
レオンは驚いたように目を見開いた後、ふっと、今までに見たこともないほど深く、切ないほどに優しい笑みを浮かべた。
彼は静かに歩み寄ると、私の前に片膝を突き、私の小さな手をそっと両手で包み込んだ。
「……主従の契約は終わったと言ったはずだが、俺の心は、最初からお前だけのものだ。エリーゼ」
彼は私の手に、そっと額を押し当てた。
「お前が俺に生きる意味をくれた。お前がその五感で世界を楽しむなら、俺はそのすべてを見守り、お前がいつか本当に俺の隣を『自分の居場所』だと認めてくれるまで、どこまでも付き合おう」
繋いだ手から、言葉以上の熱が伝わってくる。
焦る必要は、どこにもない。
私たちは、一歩ずつ、お互いの傷を癒やし、新しい記憶で塗り替えながら、ゆっくりと、けれど確実に、二人だけの特別な物語を紡いでいく。
街の灯りが、私たちの行く先を、どこまでも温かく照らし出していた。
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