銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

情報の罠と、揺らぐ視線

【エリーゼ視点】
商業ギルドの裏手にある小さな資料室で、私はレオンと共に、ギルド長から横流ししてもらった「王国の特使に関する報告書」に目を通していた。
「目的は……やっぱり私、ね」
報告書に並ぶ文字を見つめながら、私は小さくため息をついた。
そこには、第一王子ジュリアンと聖女の婚約が、教会や一部の保守派貴族から猛反発を受けていること。そして、公爵家が「不名誉な婚約破棄を覆し、エリーゼを再び王宮へ連れ戻すか、さもなくば修道院へ幽閉して世間体を保つ」ために、私の兄であるギルバートを送り込んできたことが記されていた。
「身勝手な人たち。いらなくなったら放り出して、都合が悪くなったら連れ戻すなんて、本当に論外だわ」
前世の病院でも、私の病状に無関心だった親戚たちが、最期になって急に「可哀想に」と泣き真似を始めた時のことを思い出す。彼らは私を見ていない。自分たちの「世間体」だけを見ているのだ。
「エリーゼ」
レオンが横から私の手元にそっと視線を落とす。彼の大きな手が、机の上にある私の手に触れそうで触れない、絶妙な距離感で置かれていた。
「心配するな。この街は王国の法も公爵家の権力も届かない『自由都市』だ。ギルドもお前のような優秀な調剤師を簡単に手放しはしない。それに――」
レオンは言葉を一度切り、琥珀色の瞳を真っ直ぐに私に向けた。
「俺がいる。お前が嫌がる場所に、行かせるわけがない」
その低く落ち着いた声に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
まだ「恋」なんて大それた言葉で結ばれているわけじゃない。私たちはまだ、傷を寄せ合う旅の途中で、お互いの距離感を慎重に測っている段階だ。けれど、レオンが私に向ける眼差しには、ただの護衛以上の、言葉にならない熱が確かに混ざり合っていた。
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