銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした
【レオン視点】
ギルバートの背後にいる騎士たちが、俺の殺気に圧されて思わず一歩下がった。
だが、この傲慢な貴族の男は、俺を「ただの雇われ平民」と見下しているのか、冷笑を浮かべたままエリーゼを指差した。
「エリーゼ、そんな獣を盾にして何になる。お前はヴァルハイトの人間だ。逆らうというなら、力ずくでも――」
「お断りします、お兄様」
俺の背後から、凛とした、けれどどこまでも静かな声が響いた。
エリーゼが、俺の背中から一歩横へと踏み出し、ギルバートを真っ直ぐに見つめ返したのだ。その琥珀色の瞳には、もうかつての恐怖の影は一切なかった。
「私はもう、ヴァルハイト公爵家の人間ではありません。あの夜会で、婚約破棄と共に実家との縁も切ると宣言いたしました。今の私は、このリベルタで生きる、ただの調剤師エリーゼです」
「ふん、平民の真似事をして何になる。お前一人の力で何ができるというのだ」
「何でもできますわ」
エリーゼはふっと、誇らしげに微笑んだ。
「自分の足で走り、自分の手で薬を作り、自分の力でお金を稼いで、美味しいものを食べる。前世……いえ、昔の私にはできなかった『生きている実感』が、今の私にはあります。人形のように誰かの言いなりになって、白い天井を見つめるだけの生活には、死んでも戻りません」
その言葉に込められた圧倒的な覚悟に、ギルバートは気圧されたように言葉を詰まらせた。
「……それに、私には世界一強くて、優しい騎士様がついていてくれますもの」
エリーゼは俺の腕にそっと手を添え、信頼に満ちた目で俺を見上げた。
その瞬間、俺の胸の奥にある熱が、爆発しそうなほど膨れ上がる。
「聞こえたか。彼女は戻らないと言っている。これ以上、俺の……いや、エリーゼに近づくなら、公爵家だろうと容赦はしない」
俺が大剣を僅かに鞘から抜くと、鋭い金属音が響き渡った。
ギルバートは忌々しげに歯噛みし、「……チッ、覚えていろ」と吐き捨てると、騎士たちを引き連れて足早に去っていった。
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