銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした
【レオン視点】
「もう大丈夫よ、レオン。ありがとう」
エリーゼが少し顔を赤くして俺の胸から離れる。その名残惜しさを隠すように、俺はわざとぶっきらぼうに「一回休憩にするぞ」と告げ、焚き火の準備に取り掛かった。
手際よく薪を組み、火を熾す。
荒野の夜は驚くほど冷える。昼間の酷暑が嘘のように冷たい風が吹き抜ける中、エリーゼは縮こまるようにして焚き火の側に座り、小さな手を炎にかざしていた。
「前世の病院はね、一年中エアコンが効いていて、寒くも暑くもなかったの。……でも、こうして火の有り難みを感じることも、風の冷たさに震えることも、何もかもが新鮮で愛おしいわ」
エリーゼは膝を抱え、パチパチと燃える炎を寂しげに、けれどどこか嬉しそうに見つめている。
俺は黙って、自分の身につけていた厚手のマントを脱ぎ、彼女の細い肩にふわりと掛けた。
「あ……レオン、寒くないの?」
「俺は獣人だ。人間より遥かに皮下脂肪も毛並みも厚い。気にするな」
俺が彼女の隣に腰を下ろすと、エリーゼは嬉しそうにマントにくるまり、ふう、と息を吐いた。俺のマントには俺の匂いが染み付いているはずだが、彼女はそれを嫌がる風でもなく、むしろ安心したように身体をこちらに寄せてくる。
(……無防備すぎる)
肩と肩が触れ合う距離。
彼女の持つ膨大な聖属性の魔力は、俺の中に眠る獣の本能をひどく刺激する。このまま彼女を俺の腕の中に引き込み、夜の冷え込みから完全に守るように抱きしめてしまいたい。いや、それ以上の事をして、俺の番だと世界に示したい。
だが、まだだ。
今の彼女は、自分の足で立ち、自分の力で世界を生きる楽しさを知ったばかり。俺の独占欲で、その自由な翼を縛るわけにはいかない。
「レオン、私ね。ハルシオンに着いたら、もっとたくさんの薬草を勉強して、いつかあなたの大怪我を完全に治せるような、すごい回復薬を作りたいの」
エリーゼが、潤んだ琥珀色の瞳で俺を見上げて微笑む。
その言葉の中に、当然のように「俺の未来」が含まれていることが、どれほど俺の心を救うか、彼女はまだ知らない。
「ああ、楽しみにしている。……お前の特等席は、誰にも譲る気はないからな」
「ふふ、よろしくね。私の格好いい騎士様」
荒野を渡る冷たい夜風の中で、俺たちの間にある熱は、焚き火の炎よりも確かに、そしてゆっくりと、深く燃え上がり続けていた
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