凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる
第二十六話:王の寝所、異邦人の戸惑い(エルサ・ゼオン視点)
【エルサ視点】大人の夜の、あまりにも甘いルール
高熱がすっかり下がった後も、ゼオン様の「過保護」は留まるところを知らなかった。それどころか、彼は私の「大人の理性」が一番身構えるであろう、とんでもない要求を平然と突きつけてきたのだ。
「ーー今日から、俺の寝所で眠れ、エルサ」
その言葉を聞いた瞬間、私の前世二十五年と今世十数年の記憶が一斉にアラートを鳴らした。
貴族社会における「王太子の寝所に呼ばれる」という意味。そして、前世の一般的な男女の関係性のルール。そのどちらに照らし合わせても、それは自らの身体という「最後のカード」を差し出すことを意味していた。
(……やはり、無条件の優しさなどなかった。これが、この国に私を置いておくための『対価』の請求ですね)
私は一瞬だけ目を伏せ、すぐに完璧な「大人の顔」を作って、ゼオン様を見上げた。ここで怯えたり、感情的に拒絶したりするのは悪手だ。私は合理的な「道具」として、彼の要求に最も美しく応じる義務がある。
「承知いたしました、ゼオン様。貴方のお望み通りに。……ただ、私の身体はまだ少し病み上がりで、ご満足いただけるかどうかは分かりかねますが」
私が衣服のボタンに手をかけようとした、その時だった。
「ーー違う! 違う、そうじゃない!!」
ゼオン様が悲鳴のような声を上げ、私の両手を乱暴に、けれど怪我をさせない絶妙な力加減で掴み、自身の胸元へと引き寄せた。彼の紺色の瞳は、怒りではなく、まるで自分が傷つけられたかのような深い絶望に揺れていた。
【ゼオン視点】歪な純潔、覇王の誓い
「なぜ、お前はそうやって、すぐに自分を『差し出そう』とするんだ……っ!」
俺は腕の中で、冷徹に「大人の義務」を果たそうとしたエルサを強く抱きしめ、心臓を激しく脈打たせた。
彼女の琥珀色の瞳には、俺に対する不信感ではなく、「これが世界のルールだから」という、あまりにも冷え切った諦めだけが浮かんでいた。前世の二十五年、そしてベルトラン公爵家での日々。彼女は常に、何かを差し出すことでしか、自分の安全を担保できなかったのだ。
「俺がお前を寝所に呼んだのは、そんな意味じゃない! お前が夜、またあの冷たい雨の悪夢を見て泣いていないか、俺の目の届くところで確かめたいだけだ!」
「……夜の、悪夢、ですか?」
エルサが呆然としたように呟く。俺は彼女のミルクティー色の髪を愛おしい気持ちで撫で、その耳元で、一文字ずつ刻み込むように告げた。
「お前が俺を男として受け入れてくれるまで、俺はお前の指一本、傷つけるような真似はしない。お前が俺の横で、何の恐怖も抱かずにぐっすりと眠れるようになること。俺が欲しいのは、お前の『身体』という成果物ではなく、お前の『安心』だ」
エルサの身体が、一瞬だけ硬直した。
彼女の賢すぎる大人の頭脳が、俺の提示した「対価のいらない夜」というバグだらけの計算式を、必死に処理しようとしているのが分かる。
「さあ、横になれ、エルサ。俺が朝まで、お前の手を握っていてやる」
ベッドに彼女を横たえ、俺はその隣に滑り込んで、彼女の細い指をそっと包み込んだ。
お前を縛る「奪い、奪われる世界」のルールなど、この俺の寝所の中だけでは、一切通用させない。
【エルサ視点】大人の夜の、あまりにも甘いルール
高熱がすっかり下がった後も、ゼオン様の「過保護」は留まるところを知らなかった。それどころか、彼は私の「大人の理性」が一番身構えるであろう、とんでもない要求を平然と突きつけてきたのだ。
「ーー今日から、俺の寝所で眠れ、エルサ」
その言葉を聞いた瞬間、私の前世二十五年と今世十数年の記憶が一斉にアラートを鳴らした。
貴族社会における「王太子の寝所に呼ばれる」という意味。そして、前世の一般的な男女の関係性のルール。そのどちらに照らし合わせても、それは自らの身体という「最後のカード」を差し出すことを意味していた。
(……やはり、無条件の優しさなどなかった。これが、この国に私を置いておくための『対価』の請求ですね)
私は一瞬だけ目を伏せ、すぐに完璧な「大人の顔」を作って、ゼオン様を見上げた。ここで怯えたり、感情的に拒絶したりするのは悪手だ。私は合理的な「道具」として、彼の要求に最も美しく応じる義務がある。
「承知いたしました、ゼオン様。貴方のお望み通りに。……ただ、私の身体はまだ少し病み上がりで、ご満足いただけるかどうかは分かりかねますが」
私が衣服のボタンに手をかけようとした、その時だった。
「ーー違う! 違う、そうじゃない!!」
ゼオン様が悲鳴のような声を上げ、私の両手を乱暴に、けれど怪我をさせない絶妙な力加減で掴み、自身の胸元へと引き寄せた。彼の紺色の瞳は、怒りではなく、まるで自分が傷つけられたかのような深い絶望に揺れていた。
【ゼオン視点】歪な純潔、覇王の誓い
「なぜ、お前はそうやって、すぐに自分を『差し出そう』とするんだ……っ!」
俺は腕の中で、冷徹に「大人の義務」を果たそうとしたエルサを強く抱きしめ、心臓を激しく脈打たせた。
彼女の琥珀色の瞳には、俺に対する不信感ではなく、「これが世界のルールだから」という、あまりにも冷え切った諦めだけが浮かんでいた。前世の二十五年、そしてベルトラン公爵家での日々。彼女は常に、何かを差し出すことでしか、自分の安全を担保できなかったのだ。
「俺がお前を寝所に呼んだのは、そんな意味じゃない! お前が夜、またあの冷たい雨の悪夢を見て泣いていないか、俺の目の届くところで確かめたいだけだ!」
「……夜の、悪夢、ですか?」
エルサが呆然としたように呟く。俺は彼女のミルクティー色の髪を愛おしい気持ちで撫で、その耳元で、一文字ずつ刻み込むように告げた。
「お前が俺を男として受け入れてくれるまで、俺はお前の指一本、傷つけるような真似はしない。お前が俺の横で、何の恐怖も抱かずにぐっすりと眠れるようになること。俺が欲しいのは、お前の『身体』という成果物ではなく、お前の『安心』だ」
エルサの身体が、一瞬だけ硬直した。
彼女の賢すぎる大人の頭脳が、俺の提示した「対価のいらない夜」というバグだらけの計算式を、必死に処理しようとしているのが分かる。
「さあ、横になれ、エルサ。俺が朝まで、お前の手を握っていてやる」
ベッドに彼女を横たえ、俺はその隣に滑り込んで、彼女の細い指をそっと包み込んだ。
お前を縛る「奪い、奪われる世界」のルールなど、この俺の寝所の中だけでは、一切通用させない。