凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる
第二十七話:不滅の焔、硝子の盾(ゼオン視点)
私の隣で、エルサは規則正しい、けれどどこか浅い呼吸を繰り返している。
細い指先を優しく握りしめると、彼女の身体が一瞬だけ、ビクリと強張るのが伝わってきた。眠ってなお、彼女を縛る「大人の防衛本能」は、この温かいベッドを敵地だと錯覚しているのだろう。
(……どれほど酷い生き方を強いられれば、これほどまでに心が擦り切れる?)
前世の二十五年、そして今世の十数年。彼女の譫言から溢れ出たのは、人間を人間とも思わぬ、凄惨な搾取の記憶だけだった。
役に立たなければ叩かれ、暗闇に閉じ込められ、冷たい雨の路地裏で一人、息絶える。それがエルサにとっての「世界の前提」なのだ。
さきほど、私の寝所に呼ばれた彼女は、一言の弁明も拒絶もなく、ただ義務を果たすように衣服のボタンに手をかけた。その時の、すべてを諦めたような琥珀色の瞳を思い出すだけで、私の胸の奥は怒りと、それ以上の切なさで焼き尽くされそうになる。
彼女は、私を恐れているのではない。
「この男も、他の奴らと同じように私を消費するのだろう」と、その賢すぎる頭脳で、冷徹に未来を計算してしまっているのだ。
「お前は本当に、大馬鹿者だな、エルサ……」
私は彼女の手の甲に、音も立てずに深く口づけを落とした。
私が欲しいのは、彼女の圧倒的な統計学の頭脳でも、ましてや義務感で差し出される身体でもない。
ただ、私を見つめるその瞳に、いつか一点の曇りもない信頼が宿ること。私の差し出す温もりを、何の計算もなしに「心地よい」と受け入れてくれること。それだけなのだ。
窓の外では、ガルディニアの静かな月光が夜の帳を照らしている。
エルサ、お前を縛る四十年近くの呪縛の鎖がどれほど強固だろうと、俺の執着の焔はそれ以上に熱い。
お前が「もう諦めて、この男に甘えよう」と、その頑なな硝子の盾を自ら下ろすその日まで。俺は毎夜、こうしてお前の手を握り、お前を脅かす悪夢をすべて切り裂いてやる。
私の隣で、エルサは規則正しい、けれどどこか浅い呼吸を繰り返している。
細い指先を優しく握りしめると、彼女の身体が一瞬だけ、ビクリと強張るのが伝わってきた。眠ってなお、彼女を縛る「大人の防衛本能」は、この温かいベッドを敵地だと錯覚しているのだろう。
(……どれほど酷い生き方を強いられれば、これほどまでに心が擦り切れる?)
前世の二十五年、そして今世の十数年。彼女の譫言から溢れ出たのは、人間を人間とも思わぬ、凄惨な搾取の記憶だけだった。
役に立たなければ叩かれ、暗闇に閉じ込められ、冷たい雨の路地裏で一人、息絶える。それがエルサにとっての「世界の前提」なのだ。
さきほど、私の寝所に呼ばれた彼女は、一言の弁明も拒絶もなく、ただ義務を果たすように衣服のボタンに手をかけた。その時の、すべてを諦めたような琥珀色の瞳を思い出すだけで、私の胸の奥は怒りと、それ以上の切なさで焼き尽くされそうになる。
彼女は、私を恐れているのではない。
「この男も、他の奴らと同じように私を消費するのだろう」と、その賢すぎる頭脳で、冷徹に未来を計算してしまっているのだ。
「お前は本当に、大馬鹿者だな、エルサ……」
私は彼女の手の甲に、音も立てずに深く口づけを落とした。
私が欲しいのは、彼女の圧倒的な統計学の頭脳でも、ましてや義務感で差し出される身体でもない。
ただ、私を見つめるその瞳に、いつか一点の曇りもない信頼が宿ること。私の差し出す温もりを、何の計算もなしに「心地よい」と受け入れてくれること。それだけなのだ。
窓の外では、ガルディニアの静かな月光が夜の帳を照らしている。
エルサ、お前を縛る四十年近くの呪縛の鎖がどれほど強固だろうと、俺の執着の焔はそれ以上に熱い。
お前が「もう諦めて、この男に甘えよう」と、その頑なな硝子の盾を自ら下ろすその日まで。俺は毎夜、こうしてお前の手を握り、お前を脅かす悪夢をすべて切り裂いてやる。