凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる
第四十四話:至宝の戴冠、あるいは世界中から愛される覚悟(エルサ・ゼオン・カイル視点)
【エルサ視点】大人の「計算」を置き去りにする世界
ガルディニア王国全土に「異邦の至宝・エルサを正式な王太子妃に冊立する」との布告が出されてから、数ヶ月。
私の大人の理性がどれほど「時期尚早では」「身分違いによる反発が」と懸念の計算式を走らせようとも、カイル様と国王夫妻が構築した『絶対的な包囲網』は、私のすべての退路をあらかじめ完璧に埋め尽くしていました。
不満を漏らす貴族? 一人もいませんでした。それどころか、私が無自覚に最適化した厨房、侍女の勤務体系、そして帝国の詐欺を暴いた実績が文官たちに周知された結果、王宮の全員が「エルサ様こそが我が国の真の頭脳」と、信仰に近い敬意を抱くようになっていたのです。
「エルサ様、本日のドレスは、王妃様が『エルサの琥珀色の瞳に一番似合う特注の仕立てを』と、大陸一の職人を集めて作らせたものですわ!」
ニーナが涙ぐみながら、信じられないほど美しい純白と金のドレスを私に纏わせます。
「……こんなに、素晴らしいものばかり、私には勿体ないわ。等価交換の対価としても、私、まだ今月は大きな経済成果を出していないのに……」
前世の二十五年、そしてベルトラン公爵家での十数年。私は常に、何かを与えられることの恐怖と戦ってきました。愛された記憶がなく、ただ搾取される道具でしかなかった私にとって、周囲からの無条件の「善意」は、いつ裏切られるか分からない不気味な罠のようでした。
けれど、鏡に映る私は、誰が見ても紛れもない「この国で最も大切にされているお姫様」そのものでした。
「……あ、の。ゼオン様。本当に、私がこの席に座っても……捨てられたり、役に立たないと叱られたりしないのでしょうか……っ」
王太子妃の確立の儀を前に、私の手を引くゼオン様を、私は消え入りそうな声で見上げました。いまだに染み付いた、哀しい条件反射。強く跳ね除けられない私の「優しさ」は、今、目の前の圧倒的な愛に対して、怯えながらも、少しずつ、本当に少しずつ「信じてみたい」と手を伸ばし始めていたのです。
【ゼオン視点】破壊的破壊力、至宝の「健気な甘え」
「ーー当たり前だ。お前を捨てる奴がいるとすれば、そいつはガルディニアのすべてを敵に回すことになる」
俺はエルサの細い指を強く握り締め、その琥珀色の瞳を見つめた。
今日のエルサは、反則的なまでに美しく、そしてーー恐ろしいほどに可愛かった。
いつもなら「大人の理性として、このような贅沢は〜」と小難しい顔で正論を並べるあいつが、今は俺の衣の袖をぎゅっと掴み、潤んだ瞳で「捨てられないでしょうか」と怯えながらも、俺の体温を求めて寄り添ってきている。
前世と今世、合わせて四十年間、愛を一切知らずに磨り潰されてきた異邦の天才が、生まれて初めて、俺たちに「甘える」という計算違い(バグ)を実行しているのだ。
(おい、勘弁してくれ……。これ以上可愛くなられたら、儀式の最中に抱き潰したくなるだろうが……っ)
俺の胸の奥で、独占欲と愛おしさが限界突破して火花を散らした。
これまでどれほど冷徹な覇王として生きてきた俺でも、このエルサの超ド級の健気さの前では、ただの『一人の欲深い男』に成り下がるしかない。
「エルサ。もう一度言っておく。お前がただ生きている、それだけでこのガルディニアのすべての富を支払う価値がある。お前が俺の傍で少しずつ笑ってくれるなら、俺は神にだってなってやる」
「ゼ、ゼオン様……。大人の前で、そんな大層な誓いは、ビジネスの投資対効果として……っ」
真っ赤になって俯くエルサ。その無防備な耳朶が、愛おしくて堪らない。
【カイル視点】王宮の完全なる狂騒、至宝の守護者たち
「……はあ。これは、我が国が誇る近衛騎士団が、一人の少女の愛らしさの前に完全敗北した瞬間ですね」
玉座の間へ続く回廊の影で、私は眼鏡の位置を直しながら、ため息混じりの微笑みを浮かべていました。
回廊に整列する騎士たち、そして内宮の侍女たち。
彼らは皆、ゼオン殿下にしっかりとエスコートされながら、顔を林檎のように赤くして、健気に一歩一歩進んでいくエルサ様の姿を凝視していました。
かつて帝国を三分で捻り潰した、あの冷徹な「神の頭脳」。
それが今、ドレスの裾を少し気遣いながら、「皆さんが、私を歓迎してくださるのが……嬉しくて、少し、慣れなくて……」と、はにかむように、小さく、けれど確かに周囲へ感謝の微笑みを向けたのです。
その瞬間、回廊の騎士たちの半数が「ぐはっ……」と胸を押さえて悶絶し、侍女長マルタを筆頭とする侍女たちは「エルサ様万歳!!」「なんと尊いお姿か……っ!」と、一斉にハンカチを涙で濡らし始めました。
愛を知らず、誰にも顧みられずに生きてきた彼女が、今、このガルディニアのすべての人間の『絶対的な愛』に包まれている。そして、それを「怖いけれど、信じてみる」と受け入れ始めたエルサ様の破壊力は、我が国の魔導兵器を遥かに凌駕するものでした。
「殿下、そしてエルサ様。これより、お二人の『絶対の理』が始まります」
私は扉を開き、光あふれる玉座の間へと二人を導きました。
奥で待つアルベルト陛下とエレオノーラ王妃様も、エルサ様のそのあまりの愛らしさと健気さに、すでに親バカの全開の笑顔を浮かべていらっしゃいます。
もう、過去の寒波など一瞬で消し飛ぶほどの熱量。
世界で一番安全な幸福の檻の中で、我が国の至宝は、今、世界中から愛される本物の姫君としての、最初の一歩を踏み出したのです。
【エルサ視点】大人の「計算」を置き去りにする世界
ガルディニア王国全土に「異邦の至宝・エルサを正式な王太子妃に冊立する」との布告が出されてから、数ヶ月。
私の大人の理性がどれほど「時期尚早では」「身分違いによる反発が」と懸念の計算式を走らせようとも、カイル様と国王夫妻が構築した『絶対的な包囲網』は、私のすべての退路をあらかじめ完璧に埋め尽くしていました。
不満を漏らす貴族? 一人もいませんでした。それどころか、私が無自覚に最適化した厨房、侍女の勤務体系、そして帝国の詐欺を暴いた実績が文官たちに周知された結果、王宮の全員が「エルサ様こそが我が国の真の頭脳」と、信仰に近い敬意を抱くようになっていたのです。
「エルサ様、本日のドレスは、王妃様が『エルサの琥珀色の瞳に一番似合う特注の仕立てを』と、大陸一の職人を集めて作らせたものですわ!」
ニーナが涙ぐみながら、信じられないほど美しい純白と金のドレスを私に纏わせます。
「……こんなに、素晴らしいものばかり、私には勿体ないわ。等価交換の対価としても、私、まだ今月は大きな経済成果を出していないのに……」
前世の二十五年、そしてベルトラン公爵家での十数年。私は常に、何かを与えられることの恐怖と戦ってきました。愛された記憶がなく、ただ搾取される道具でしかなかった私にとって、周囲からの無条件の「善意」は、いつ裏切られるか分からない不気味な罠のようでした。
けれど、鏡に映る私は、誰が見ても紛れもない「この国で最も大切にされているお姫様」そのものでした。
「……あ、の。ゼオン様。本当に、私がこの席に座っても……捨てられたり、役に立たないと叱られたりしないのでしょうか……っ」
王太子妃の確立の儀を前に、私の手を引くゼオン様を、私は消え入りそうな声で見上げました。いまだに染み付いた、哀しい条件反射。強く跳ね除けられない私の「優しさ」は、今、目の前の圧倒的な愛に対して、怯えながらも、少しずつ、本当に少しずつ「信じてみたい」と手を伸ばし始めていたのです。
【ゼオン視点】破壊的破壊力、至宝の「健気な甘え」
「ーー当たり前だ。お前を捨てる奴がいるとすれば、そいつはガルディニアのすべてを敵に回すことになる」
俺はエルサの細い指を強く握り締め、その琥珀色の瞳を見つめた。
今日のエルサは、反則的なまでに美しく、そしてーー恐ろしいほどに可愛かった。
いつもなら「大人の理性として、このような贅沢は〜」と小難しい顔で正論を並べるあいつが、今は俺の衣の袖をぎゅっと掴み、潤んだ瞳で「捨てられないでしょうか」と怯えながらも、俺の体温を求めて寄り添ってきている。
前世と今世、合わせて四十年間、愛を一切知らずに磨り潰されてきた異邦の天才が、生まれて初めて、俺たちに「甘える」という計算違い(バグ)を実行しているのだ。
(おい、勘弁してくれ……。これ以上可愛くなられたら、儀式の最中に抱き潰したくなるだろうが……っ)
俺の胸の奥で、独占欲と愛おしさが限界突破して火花を散らした。
これまでどれほど冷徹な覇王として生きてきた俺でも、このエルサの超ド級の健気さの前では、ただの『一人の欲深い男』に成り下がるしかない。
「エルサ。もう一度言っておく。お前がただ生きている、それだけでこのガルディニアのすべての富を支払う価値がある。お前が俺の傍で少しずつ笑ってくれるなら、俺は神にだってなってやる」
「ゼ、ゼオン様……。大人の前で、そんな大層な誓いは、ビジネスの投資対効果として……っ」
真っ赤になって俯くエルサ。その無防備な耳朶が、愛おしくて堪らない。
【カイル視点】王宮の完全なる狂騒、至宝の守護者たち
「……はあ。これは、我が国が誇る近衛騎士団が、一人の少女の愛らしさの前に完全敗北した瞬間ですね」
玉座の間へ続く回廊の影で、私は眼鏡の位置を直しながら、ため息混じりの微笑みを浮かべていました。
回廊に整列する騎士たち、そして内宮の侍女たち。
彼らは皆、ゼオン殿下にしっかりとエスコートされながら、顔を林檎のように赤くして、健気に一歩一歩進んでいくエルサ様の姿を凝視していました。
かつて帝国を三分で捻り潰した、あの冷徹な「神の頭脳」。
それが今、ドレスの裾を少し気遣いながら、「皆さんが、私を歓迎してくださるのが……嬉しくて、少し、慣れなくて……」と、はにかむように、小さく、けれど確かに周囲へ感謝の微笑みを向けたのです。
その瞬間、回廊の騎士たちの半数が「ぐはっ……」と胸を押さえて悶絶し、侍女長マルタを筆頭とする侍女たちは「エルサ様万歳!!」「なんと尊いお姿か……っ!」と、一斉にハンカチを涙で濡らし始めました。
愛を知らず、誰にも顧みられずに生きてきた彼女が、今、このガルディニアのすべての人間の『絶対的な愛』に包まれている。そして、それを「怖いけれど、信じてみる」と受け入れ始めたエルサ様の破壊力は、我が国の魔導兵器を遥かに凌駕するものでした。
「殿下、そしてエルサ様。これより、お二人の『絶対の理』が始まります」
私は扉を開き、光あふれる玉座の間へと二人を導きました。
奥で待つアルベルト陛下とエレオノーラ王妃様も、エルサ様のそのあまりの愛らしさと健気さに、すでに親バカの全開の笑顔を浮かべていらっしゃいます。
もう、過去の寒波など一瞬で消し飛ぶほどの熱量。
世界で一番安全な幸福の檻の中で、我が国の至宝は、今、世界中から愛される本物の姫君としての、最初の一歩を踏み出したのです。