凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる
第六十一話:絶対のバグ、永遠の解(エルサ・ゼオン視点)
【エルサ視点】世界で一番、甘やかなエラー
ゼオン様の腕の中で、幾度も熱い唇を重ね合わせ、互いの体温を限界まで分かち合ったあと。私は彼の広い胸に背中を預け、部屋の窓から見えるガルディニアの美しい星空を見上げていました。
私の腰を後ろから強く、けれど愛おしそうに抱きしめる彼の腕からは、絶え間なくドクドクと、力強い鼓動が伝わってきます。
前世の記憶を持って生まれてから今日まで、私の人生は常に完璧な数式で構築されていました。
人間関係も、仕事も、生き延びるための戦略も、すべては入力(コスト)と出力(リターン)の計算。それ以外の無駄な要素は、生きるためにすべて削ぎ落としてきたのです。
けれど。
「ゼオン様」
私は、自分の腰に回された大きな手に、そっと自分の小さな手を重ねました。
「どうした、エルサ」
耳元で、低く掠れた愛おしげな声が響きます。私は振り返り、彼の深い紺色の瞳を真っ直ぐに見つめました。
「私の頭脳は、今でもこの世界のすべてを数値と論理で捉えようとします。……ですが、貴方が私に注いでくださる『絶対的な溺愛』と『真心』だけは、どうしても因数分解ができないのです。どんなに計算しても、答えが『無限大』になってしまうから」
私はふふ、と小さく声を立てて笑いました。
それは、前世の二十五年、今世の十数年、誰の前でも見せたことのない、大人の仮面を一枚も残さずに剥ぎ取った、一人の女の子としての、心からの素の笑顔でした。
「ゼオン様。貴方は、私の計算式のなかで、生涯かけても絶対に解けない『最高に不条理なバグ(最愛の人)』です。……論理を越えて、心から、貴方を愛しています」
生まれて初めて、誰の顔色を窺うでもなく、自分の内側から溢れ出た【永遠の誓い】。
その言葉を口にした瞬間、私の視界はまたしても幸福な熱さで潤んでいきました。
【ゼオン視点】バグを愛し抜く、唯一の証明
「ーーっ」
エルサの口から紡がれた、その生涯の誓い。
そして、月光に照らされたあいつの、一点の曇りもない、心の底からの【素の笑顔】。
その破壊力たるや、俺の心臓を物理的に打ち抜くには十分すぎるものだった。
俺を『絶対的なバグ』と呼び、愛していると、世界で一番綺麗な笑顔で告白してくれたのだ。
エルサの人生の計算式を、俺の愛が、俺たちの過保護な包囲網が、ついに完全に『書き換えた』のだという、男としてのこれ以上ない極上の勝利の余韻が全身を駆け巡る。
「エルサ。お前が俺を『バグ』と呼ぶなら、俺はそのエラーを一生修正(直)してやらない」
俺はエルサの身体を強く引き寄せ、その可憐な笑顔を閉じ込めるように、唇を深く、深く重ね合わせた。
「ん、ぅ……っ、ゼオン……様……っ」
何度も、何度も、あいつの口内の柔らかさを貪り、俺の熱い恋心(たいおん)を流し込んでいく。
「お前が俺を愛してくれるなら、俺はガルディニアのすべてを、俺の命のすべてを賭けて、お前という『最高のバグ』を一生愛し抜いてみせる」
彼女の人生の方程式は、これから先、俺たちとの「無限の幸福」という解だけを、永遠に出力し続けるのだ。
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