凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる
第六十五話:芽吹く純白、そして未来への灯火(エルサ・ゼオン・カイル視点)
【エルサ視点】数式が導く、子供たちの『光』
「ーー私は、前世でも今世でも、本当の親の愛というものを知らずに育ちました。だからこそ、分かってしまうのです。データ上、愛を知らずに育った子供たちが、どれほど強固な心の防壁を築き、孤独に磨り潰されていくかを」
初夜から数週間後。
私は王宮の会議室で、ゼオン様、カイル様、そして国王夫妻を前に、自ら書き上げた一枚の巨大なプロジェクト計画書を広げていました。
私を救ってくれたガルディニアの『絶対的な溺愛』。
その温かさを知った今、私の大人の頭脳が導き出した次のタスクーーそれは、かつての私のように、親の愛を知らずに冬の時代を生きる、ガルディニア全土の孤児や子供たちの救済でした。
「前世の知識である『幼児心理学の育成プログラム』と『効率的な福祉ロジスティクス』を融合させ、国営の特級孤児院および教育聖区を設立します。目的は投資対効果(リターン)ではありません。子供たちに『あなたはそこにいるだけで価値がある』という無条件の方程式を、社会全体で供給するためです」
「エルサ……お前は、どこまで尊い存在になれば気が済むんだ」
隣に座るゼオン様が、私の手をこれ以上ないほど愛おしそうに握り締め、紺色の瞳を熱く濡らしています。
私は少し頬を赤らめながらも、心からの、一点の曇りもない笑顔を向けました。
「私のような悲しい子供を、もう二度と、この世界に産み出さないために。これが、私を『人間』にしてくれた皆様への、そしてこの世界への、私の生涯を賭けた新しい取り組みです」
【ゼオン視点】至宝が照らす、国家の未来(大成功)
エルサが始動させたその取り組みーー通称『純白の芽吹きプロジェクト』は、開始からわずか数ヶ月で、ガルディニアの歴史を塗り替えるほどの大成功を収めた。
あいつが前世のチート知識をフル活用して構築した新しい孤児院は、ただ子供たちを収容する場所ではなかった。
前世の『栄養学』に基づいた極上の食事が無償で提供され、あいつのマニュアルで訓練された侍女や保育士たちが、子供たち一人一人を「これでもか」というほどの理由なき善意で抱きしめる。さらに、あいつの組んだ『適性発見アルゴリズム』によって、子供たちは自らの才能を無理なく開花させていったのだ。
「ーー見てください、ゼオン様! あんなに心を閉ざしていたあの子たちが、今はあんなに笑っています!」
視察に訪れた王都の孤児院。
エルサがテラスから庭を指差す。そこには、かつてのエルサのように凍りついていたはずの孤児たちが、泥だらけになりながら、弾けるような、心の底からの笑顔で走り回っていた。
「エルサ様ーーっ!」「エルサお姉様、大好きーーっ!」
エルサの姿を見つけた子供たちが、一斉に駆け寄ってきて、彼女の美しいドレスの裾に次々と抱きついていく。
「あ……ふふ、みんな、危ないですよ? ……でも、嬉しいです。温かいですね」
子供たちに囲まれ、かつてないほどに柔らかく、聖母のような【素の笑顔】を浮かべる我が妃。
その尊すぎる光景に、俺の胸の奥から、狂おしいほどの愛おしさと誇らしさが爆発した。
「ああ、エルサ。お前がこの国の子供たちの光になったんだ。ならば俺は、その光が永久に陰らないよう、世界中のあらゆる脅威からお前たちを力ずくで守り抜く鉄壁の盾となってやる」
【カイル視点】救済の連鎖、あるいは神の数式の完成
「……素晴らしい。エルサ様、あなたが蒔いた愛の種は、今やガルディニアの未来そのものを完璧に塗り替えてしまいましたね」
視察の同行中、私は眼鏡のブリッジを静かに押し上げ、手元の報告書(孤児院出身者の犯罪率『0%』、幸福度『200%向上』の統計データ)を見つめながら、深く、深く感動に震えていました。
殿下の溺愛によって愛を知り、今度はその『知識という名の愛』を使って、国中の寂しい子供たちを完璧に救済(包囲)してしまったのです。
「カイル……! エルサが、自身の悲しい過去を、こんなにも美しい奇跡に変えたわ……っ!」
私の後ろでは、同行していた侍女長マルタや厨房のクロエ、さらにはお忍びで付いてこられたエレオノーラ王妃様までが、一斉にハンカチを涙で濡らし、大洪水の涙を流して身悶えしていました。
「ええ、王妃様。エルサ様の人生の計算式は、もう誰も傷つけない、世界一甘やかで、世界一優しい『幸福の永久機関』へと昇華されたのです」
異邦の至宝がもたらした、未来への大いなる恩返し。
彼女が作り出した光の檻は、これからも止むことなく、ガルディニアのすべての子供たちの未来を、果てなき祝福の色彩で満たし続けるのでした。
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