恋の練習のはずが、若手社長の溺愛に蕩かされています~声フェチ女子は断れない~

若手社長は少し意地悪?

 だが、その日の終業後。

 郁は早速、平常心を揺らされる事態に直面した。

「あの……どこまで行くんですか……?」

 シートベルトを締めた助手席で緊張しつつ、郁は質問する。

 運転席でハンドルを握る風早に向かって、である。

 この車は黒いボディの海外製だ。

 普段は運転手が就くらしいが、今日は自分で運転したいと言っていた。

「軽くドライブだよ。お互いのことを知るために良いかなと思ってね」

 さらりと説明された。

 確かにデートは『恋人らしいこと』の代表だ。

 それに「今日、時間はある?」と誘われたとき「大丈夫です」と答えてしまった。

 明日は土曜日で、用事はない。

 一人暮らしだし、少し帰りが遅くなっても問題なかった。

 だから郁は誘いに応えたが、実際車に乗り、閉鎖的な場所で彼の声を存分に聴ける状況には戸惑った。

「なるほど……」

 発する相槌すら、おぼつかなくなる始末だ。

 そんな郁の心情を察したらしい風早は、穏やかに質問してきた。

「ちょうどいいから、汐見さんのことについて聞かせてくれ。歌とかトークとかを聴くのが好きなのかな」

 郁は少しだけほっとした。ここなら距離があるし、刺激は強すぎない。
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