完璧すぎる彼氏

ありがとうと言われる仕事

第13話 「ありがとうと言われる仕事」

築五十年。

誰も住まなくなって何年も経つ、小さな一軒家。

最初にこの家を見た時、不動産会社の担当者は言った。

「解体したほうが早いですよ。」

それでも蒼真は首を横に振った。

「まだ、この家は終わっていません。」

大学の講義が終わると現場へ向かう。

休日は朝から夕方まで作業。

壁紙を張り替え、床を磨き、傷んだ扉を修理する。

一人ではできない作業は、友人たちが手伝ってくれた。

「お前、本当に家が好きなんだな。」

笑われることもあった。

蒼真も笑い返した。

「好きなんじゃない。」

工具を握りしめながら、小さくつぶやく。

「家には、人の思い出があるから。」

数か月後。

見違えるほど明るく生まれ変わった家が完成した。

白い壁。

木のぬくもりが残る床。

小さな庭には、新しい花が植えられている。

その家を見に来たのは、小さな女の子を連れた若い夫婦だった。

「素敵……。」

奥さんが目を潤ませる。

「予算内で、本当にこの家が買えるんですか?」

「はい。」

蒼真は優しく微笑んだ。

「無理のない返済計画も一緒に考えましょう。」

夫婦は顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。

契約の日。

女の子が玄関で飛び跳ねながら言った。

「ここが、わたしのおうち?」

「そうだよ。」

お父さんが笑って抱き上げる。

「今日から帰るおうちだ。」

その瞬間だった。

「ありがとうございます。」

深々と頭を下げる夫婦を見た蒼真は、胸が熱くなった。

自分も昔、こんな家が欲しかった。

安心して眠れて、

笑って「ただいま」と言える場所が。

その夢を、自分は誰かに届けられた。

帰り道。

夕日に照らされた家を振り返りながら、蒼真は静かに空を見上げた。

「おばあちゃん。」

幼い頃、唯一愛してくれた祖母の笑顔が浮かぶ。

『蒼ちゃんは、人を幸せにできる子だよ。』

あの日の言葉が、今になって胸に響く。

「俺、見つけたよ。」

自分が生きる意味を。

その夜。

机の引き出しを開けると、一枚のメモが入っていた。

高校時代、花音が貸してくれたノートの切れ端。

そこには、小さな文字で書かれている。

『無理しすぎないでね。』

何年経っても色あせないその言葉を見つめながら、蒼真はそっと微笑んだ。

「もう少し待っていて。」

「君にふさわしい男になるから。」

その約束だけは、今も変わらなかった。
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