完璧すぎる彼氏

未来に進むために

第21話 「未来へ進むために」

母の手紙を読んでから、一週間が過ぎた。

蒼真は以前と変わらず仕事に打ち込んでいた。

いや――。

以前よりも穏やかな表情で笑うようになっていた。

「社長、最近いいことありました?」

社員の一人が笑いながら尋ねる。

「そう見える?」

「はい。前より肩の力が抜けた気がします。」

蒼真は照れくさそうに笑った。

「そうかもしれない。」

その日の午後。

新しく購入を検討している中古住宅の視察へ向かった。

築四十五年。

庭には雑草が伸び、玄関の扉は色あせている。

不動産会社の担当者が申し訳なさそうに言った。

「正直、このままでは売れません。」

蒼真はゆっくり家の中を歩く。

窓を開けると、柔らかな風が吹き抜けた。

「この家……。」

柱にそっと手を添える。

「まだ終わっていない。」

担当者は苦笑する。

「社長は、いつもそう言いますね。」

「家も人も同じです。」

蒼真は優しく微笑んだ。

「大切に手をかければ、もう一度笑顔を取り戻せる。」

その言葉には、以前とは違う強さがあった。

過去を受け入れた今だからこそ言える言葉だった。

夕方。

会社へ戻ると、受付の女性が声をかける。

「社長、花音さんがお見えです。」

「花音が?」

ロビーへ向かうと、小さな紙袋を抱えた花音が立っていた。

「お疲れさま。」

「どうしたの?」

「差し入れ。」

袋の中には、蒼真の好きな焼き菓子が入っていた。

「この前、おいしいって言ってたでしょ?」

蒼真は思わず笑う。

「覚えててくれたんだ。」

「もちろん。」

花音は照れながら答えた。

「いつも私のことばかり覚えてくれるから、たまには私も蒼真を驚かせたくて。」

その言葉を聞いた瞬間、胸がいっぱいになった。

今まで与えることばかり考えていた。

守ることばかり考えていた。

でも、本当の恋人は違う。

支えるのは、一人だけじゃない。

支え合うものなんだ。

「花音。」

「ん?」

「ありがとう。」

蒼真は優しく彼女の手を握った。

「これからは、一人で頑張りすぎない。」

花音は嬉しそうに微笑む。

「約束?」

「ああ、約束。」

夕日に照らされた二人の影が、ゆっくりと一つに重なっていく。

過去を乗り越えた先に待っていたのは、誰かを守るだけの未来ではなかった。

隣で笑い合い、支え合いながら歩いていく――

そんな、新しい未来の始まりだった。
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