完璧すぎる彼氏
母からの手紙
第20話 「母からの手紙」
応接室には静かな空気が流れていた。
テーブルの上に置かれた、一通の封筒。
『蒼真へ』
見慣れない文字。
それなのに、なぜか胸が苦しくなる。
「読まなくてもいいのよ。」
叔母が静かに言った。
「これはあなたが決めることだから。」
蒼真は封筒を見つめたまま動かなかった。
幼い頃から何度も考えた。
どうして母は自分を置いていったのか。
どうして迎えに来てくれなかったのか。
答えが欲しかった。
でも、知るのが怖かった。
その時、隣から温かい手が重なる。
花音だった。
「私は、蒼真がどんな答えを選んでも味方だよ。」
その一言に、蒼真は小さくうなずいた。
ゆっくりと封を開く。
中には一枚の便箋と、小さな写真が入っていた。
写真には、まだ幼い蒼真を抱きしめる若い女性が写っている。
優しく笑う母の姿だった。
便箋を開く。
震える手で、最初の一行を読む。
『蒼真へ。
この手紙を読んでいる頃、私はもうこの世にはいないでしょう。』
蒼真の呼吸が止まる。
『最初に謝らせてください。
あなたを愛していなかった日は、一日もありません。』
一粒の涙が便箋に落ちた。
『毎日抱きしめて、一緒に笑って暮らしたかった。
でも、それができませんでした。』
『あなたを手放したことを、一度も正しいと思ったことはありません。
毎日後悔して、毎日あなたの幸せを願っていました。』
蒼真は目を閉じる。
ずっと憎もうとしていた母。
でも、その文字から伝わるのは、深い後悔と愛情だった。
『お願いがあります。
もしあなたの隣に、大切な人がいるなら、その人を信じてください。
一人で泣かないでください。
あなたには、人を幸せにする力があります。』
便箋の最後には、震えた文字でこう書かれていた。
『生まれてきてくれて、ありがとう。』
蒼真は声を押し殺しながら泣いた。
子どもの頃、一度だけでも聞きたかった言葉。
何十年も心の奥で探し続けた言葉だった。
花音は何も言わず、そっと彼を抱きしめる。
「……母さん。」
その声は、小さく震えていた。
叔母も静かに涙をぬぐう。
「ごめんなさい……。」
蒼真はゆっくり顔を上げた。
そして初めて、叔母の目を見つめる。
「過去は消えません。」
叔母はうつむく。
「でも……。」
蒼真は穏やかに微笑んだ。
「おばあちゃんが言っていました。
『憎しみを抱えたままでは、幸せになれない』って。」
叔母の頬を、大粒の涙が伝う。
「だから、俺は前を向きます。」
その言葉を聞いた花音は、静かに蒼真の手を握り直した。
長い間閉ざされていた心の扉が、少しだけ開いた瞬間だった。
応接室には静かな空気が流れていた。
テーブルの上に置かれた、一通の封筒。
『蒼真へ』
見慣れない文字。
それなのに、なぜか胸が苦しくなる。
「読まなくてもいいのよ。」
叔母が静かに言った。
「これはあなたが決めることだから。」
蒼真は封筒を見つめたまま動かなかった。
幼い頃から何度も考えた。
どうして母は自分を置いていったのか。
どうして迎えに来てくれなかったのか。
答えが欲しかった。
でも、知るのが怖かった。
その時、隣から温かい手が重なる。
花音だった。
「私は、蒼真がどんな答えを選んでも味方だよ。」
その一言に、蒼真は小さくうなずいた。
ゆっくりと封を開く。
中には一枚の便箋と、小さな写真が入っていた。
写真には、まだ幼い蒼真を抱きしめる若い女性が写っている。
優しく笑う母の姿だった。
便箋を開く。
震える手で、最初の一行を読む。
『蒼真へ。
この手紙を読んでいる頃、私はもうこの世にはいないでしょう。』
蒼真の呼吸が止まる。
『最初に謝らせてください。
あなたを愛していなかった日は、一日もありません。』
一粒の涙が便箋に落ちた。
『毎日抱きしめて、一緒に笑って暮らしたかった。
でも、それができませんでした。』
『あなたを手放したことを、一度も正しいと思ったことはありません。
毎日後悔して、毎日あなたの幸せを願っていました。』
蒼真は目を閉じる。
ずっと憎もうとしていた母。
でも、その文字から伝わるのは、深い後悔と愛情だった。
『お願いがあります。
もしあなたの隣に、大切な人がいるなら、その人を信じてください。
一人で泣かないでください。
あなたには、人を幸せにする力があります。』
便箋の最後には、震えた文字でこう書かれていた。
『生まれてきてくれて、ありがとう。』
蒼真は声を押し殺しながら泣いた。
子どもの頃、一度だけでも聞きたかった言葉。
何十年も心の奥で探し続けた言葉だった。
花音は何も言わず、そっと彼を抱きしめる。
「……母さん。」
その声は、小さく震えていた。
叔母も静かに涙をぬぐう。
「ごめんなさい……。」
蒼真はゆっくり顔を上げた。
そして初めて、叔母の目を見つめる。
「過去は消えません。」
叔母はうつむく。
「でも……。」
蒼真は穏やかに微笑んだ。
「おばあちゃんが言っていました。
『憎しみを抱えたままでは、幸せになれない』って。」
叔母の頬を、大粒の涙が伝う。
「だから、俺は前を向きます。」
その言葉を聞いた花音は、静かに蒼真の手を握り直した。
長い間閉ざされていた心の扉が、少しだけ開いた瞬間だった。