王女エメリーネに悪女は似合わない~軍人公爵の盲愛に囚われて
 ふと、先ほどの彼の言葉が脳裏をよぎる。
 ――俺も愚か者を演じてみようかと思ったのだよ。
 すなわちこれは、オディロンの演技なのだ。慣れぬダンスでエメリーネを転ばせた挙げ句、怪我をさせてしまったという筋書きなのだろう。
 エメリーネの心には、彼の機転に対する感謝と、共犯者のような小さな興奮が芽生えていた。
「そうね。今宵はもう、踊れそうにないわ……」
 エメリーネは声を小さくし、芝居に付き合うように答えた
 オディロンはエメリーネを抱き上げたまま、ダンスの輪から抜け出す。
 そのまま会場を去ろうとした瞬間、エメリーネは「待って」と声をかける。
「お父様に挨拶と、それからラモン夫人に言づけを」
 シーラは婚約者とパーティーへ出席している。そのため、今日のエメリーネにはシーラの母、ラモン伯爵夫人が介添えとして付き添ってくれた。王妃とも親しい関係を築いていたラモン夫人だからこそ、エメリーネも絶大な信頼を寄せている。
 また、パーティーの主役はエメリーネだが、主催は国王その人だ。であれば、退出前に父王への挨拶は欠かせない礼儀となる。
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