溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~
第46話 【あきらside】――壊れそうな夜に
足が重い。
一歩一歩を引きずるように、ふらつきながらエレベーターへ向かい、地下へ戻った。
視線の先には、小森さんの待つワゴン車。
「あきら!」
俺を見つけるなり、小森さんが慌てた様子で駆け寄ってきた。
そのまま勢いよく抱きしめられる。
ただ呆然と見つめ返す。
見上げてくる彼女の瞳には、涙がたまっていた。
何も、感じない。
頭の中は、星のことでいっぱいだから。
「さっきはごめんね。私ったら、つい……。
だって、あなたが好きだから!」
好き。
その言葉を聞くと、胸に嫌な重さがのしかかる。
やけに引っかかって、気分が悪くなった。
小森さんは俺の顔を見て眉をひそめる。
「あきら……大丈夫? 顔、青いよ」
そんなに酷い顔をしてるのか。自分ではわからない。
「うん、大丈夫」
そう答えながらも、意識はぼんやりしていた。
考えたくない。受け止めたくない。
さっきの出来事があまりにも衝撃的で、感情や思考がすべて停止してしまったみたいだった。
小森さんは、わざとらしく明るい声を出す。
「そうだ。今日はもう仕事もないし、家まで送ってあげる。
さっきのことも、話したいし。いろいろと」
気まずそうに一度うつむき、すぐに作り笑いを浮かべた。
そして俺の背中にそっと手を回し、寄り添ってくる。
その支えに導かれるように、俺はワゴン車へ乗り込んだ。
まだ霞んだ意識の中、エンジンのかかる音だけがやけに鮮明に響いていた。
マンションに着くと、小森さんは当然のように付き添い、部屋の中まで入ってきた。
キッチンに立つ姿は妙に手慣れている。
俺は何も言わず、ただソファに腰を下ろした。
視線は宙をさまよい、頭の中はまだ整理できないままだ。
「さ、これでも飲んで」
差し出されたマグカップから、あたたかな湯気が立ちのぼる。
「……ありがとう」
気持ちを落ち着けた方がいい。そう思って口をつける。
温かさと、馴染んだコーヒーの香りが少しずつ感覚を取り戻させてくれる気がした。
小森さんが俺の横に腰を下ろし、様子を窺うような眼差しで見つめる。
「ねえ、あきら」
甘えるような声音。
少し身を寄せてくる仕草に、俺は自然と距離を取った。
すると、間髪入れずに手を握られる。
「さっきのことだけど、ごめんなさい。怒ってる?」
じっと見上げてくる視線。
俺は心の中でため息をついた。
やっぱり、そのことか。
黙っていると、小森さんは焦ったように、握る手にぎゅっと力を込めてきた。
「ごめんなさい! でも、私の気持ちを知ってほしくて。
私……ずっと、あきらのこと」
「もうやめてくれ!」
腹の底から声が出た。
我ながら驚くほど大きな声だった。
小森さんはびくりと体を震わせ、動きを止める。
俺がこんなふうに怒鳴るのを、彼女はきっと初めて見たからだ。
きつく睨みつける。
「あなたは俺のマネージャーですよね? それ以上でも以下でもない。
小森さんのことを好きになることはありません!」
普段はため口だったけど、このときはあえて敬語を使った。
その方がはっきりと拒絶の意思を伝えられると思ったからだ。
彼女の瞳が悲しげに揺れ、涙がじわりとにじむ。
少し胸が痛んだ。
けれど、ここで甘い顔を見せるわけにはいかない。
「……そんなこと、わかってる。わかってたけど、想いは止められないの。
あきらのことが好き。あなたを支えたいの。仕事も、プライベートも。
私ならできる! 星ちゃんには無理よ。あの子より」
「星のことを悪く言わないでくれ!!」
怒りが爆発した。
今回のことで彼女を深く傷つけた。
それだけでも自分が許せなくて、苦しかった。
それなのに、さらに星を悪く言われる。はらわたが煮えくり返りそうだ。
小森さんは口を閉ざし、下を向いて押し黙る。
俺もうつむいたまま、重苦しい沈黙が流れた。
やがて、彼女がぽつりと口を開く。
「星ちゃん、か……。ねえ、あの子のどこがいいの?」
冷たい声音。
顔を上げると、今まで見たことのないほど冷たい目をした彼女がいた。
「あの子、あなたの邪魔ばかりしてるじゃない。
役に立ったことなんてある?
あきらにとってプラスになるのかしら。今だって、こんなに苦しめてる」
冷めた表情がふっと緩み、妖艶な笑みへと変わる。
そして彼女は俺の腕に触れ、もう片方の手を胸へ伸ばそうとしてきた。
「やめてくれ」
その手をはじいた。
「……っ」
小森さんは目を見開き、眉を寄せる。
傷ついたように顔を歪め、悔しげに唇を噛みしめた彼女が、叫ぶように言った。
「なによ……あの子には、あの男がいるじゃない!」
本条守。
脳裏に彼の姿が浮かび、ズキンと胸が痛む。
「あの人の方が、星ちゃんにはお似合いよ」
そう言い捨て、小森さんは勢いよく立ち上がった。
背を向けたまま、震える声で続ける。
「帰る。また仕事のとき迎えに来るから」
僅かに肩を震わせたまま、彼女は静かに部屋をあとにした。
しんと静まり返った部屋で、俺はひとり項垂れた。
どれくらい、そのままの姿勢でいたのかわからない。
頭の中に浮かんでいたのは、星のこと。
俺はどうしたらいい?
傷ついた彼女の顔が、頭から離れない。
俺を見つめるあの瞳を思い出すたび、胸が締めつけられる。
ひどいことを言ってしまった。
「あいつの方がいい」なんて、思ってもいないことを。
それに、小森さんとのキス。
あれは俺の意思じゃない。あっちが勝手にしたことだ。
でも、キスをしてしまったことには変わりなくて……星は、傷ついただろう。
俺だって許せなかった。
二人のキスを見たとき、めちゃくちゃ悔しくて、心が引き裂かれるほど傷ついた。
好きであればあるほど、その想いは大きくなる。
俺が一番、その辛さをわかっていたはずなのに。
それなのに、あんな態度を取ってしまった。
「ああ……もう、俺は何してんだ!」
頭を抱え、うなる。
それからも悶々と悩み続け、気づけば夜が明けていた。
一歩一歩を引きずるように、ふらつきながらエレベーターへ向かい、地下へ戻った。
視線の先には、小森さんの待つワゴン車。
「あきら!」
俺を見つけるなり、小森さんが慌てた様子で駆け寄ってきた。
そのまま勢いよく抱きしめられる。
ただ呆然と見つめ返す。
見上げてくる彼女の瞳には、涙がたまっていた。
何も、感じない。
頭の中は、星のことでいっぱいだから。
「さっきはごめんね。私ったら、つい……。
だって、あなたが好きだから!」
好き。
その言葉を聞くと、胸に嫌な重さがのしかかる。
やけに引っかかって、気分が悪くなった。
小森さんは俺の顔を見て眉をひそめる。
「あきら……大丈夫? 顔、青いよ」
そんなに酷い顔をしてるのか。自分ではわからない。
「うん、大丈夫」
そう答えながらも、意識はぼんやりしていた。
考えたくない。受け止めたくない。
さっきの出来事があまりにも衝撃的で、感情や思考がすべて停止してしまったみたいだった。
小森さんは、わざとらしく明るい声を出す。
「そうだ。今日はもう仕事もないし、家まで送ってあげる。
さっきのことも、話したいし。いろいろと」
気まずそうに一度うつむき、すぐに作り笑いを浮かべた。
そして俺の背中にそっと手を回し、寄り添ってくる。
その支えに導かれるように、俺はワゴン車へ乗り込んだ。
まだ霞んだ意識の中、エンジンのかかる音だけがやけに鮮明に響いていた。
マンションに着くと、小森さんは当然のように付き添い、部屋の中まで入ってきた。
キッチンに立つ姿は妙に手慣れている。
俺は何も言わず、ただソファに腰を下ろした。
視線は宙をさまよい、頭の中はまだ整理できないままだ。
「さ、これでも飲んで」
差し出されたマグカップから、あたたかな湯気が立ちのぼる。
「……ありがとう」
気持ちを落ち着けた方がいい。そう思って口をつける。
温かさと、馴染んだコーヒーの香りが少しずつ感覚を取り戻させてくれる気がした。
小森さんが俺の横に腰を下ろし、様子を窺うような眼差しで見つめる。
「ねえ、あきら」
甘えるような声音。
少し身を寄せてくる仕草に、俺は自然と距離を取った。
すると、間髪入れずに手を握られる。
「さっきのことだけど、ごめんなさい。怒ってる?」
じっと見上げてくる視線。
俺は心の中でため息をついた。
やっぱり、そのことか。
黙っていると、小森さんは焦ったように、握る手にぎゅっと力を込めてきた。
「ごめんなさい! でも、私の気持ちを知ってほしくて。
私……ずっと、あきらのこと」
「もうやめてくれ!」
腹の底から声が出た。
我ながら驚くほど大きな声だった。
小森さんはびくりと体を震わせ、動きを止める。
俺がこんなふうに怒鳴るのを、彼女はきっと初めて見たからだ。
きつく睨みつける。
「あなたは俺のマネージャーですよね? それ以上でも以下でもない。
小森さんのことを好きになることはありません!」
普段はため口だったけど、このときはあえて敬語を使った。
その方がはっきりと拒絶の意思を伝えられると思ったからだ。
彼女の瞳が悲しげに揺れ、涙がじわりとにじむ。
少し胸が痛んだ。
けれど、ここで甘い顔を見せるわけにはいかない。
「……そんなこと、わかってる。わかってたけど、想いは止められないの。
あきらのことが好き。あなたを支えたいの。仕事も、プライベートも。
私ならできる! 星ちゃんには無理よ。あの子より」
「星のことを悪く言わないでくれ!!」
怒りが爆発した。
今回のことで彼女を深く傷つけた。
それだけでも自分が許せなくて、苦しかった。
それなのに、さらに星を悪く言われる。はらわたが煮えくり返りそうだ。
小森さんは口を閉ざし、下を向いて押し黙る。
俺もうつむいたまま、重苦しい沈黙が流れた。
やがて、彼女がぽつりと口を開く。
「星ちゃん、か……。ねえ、あの子のどこがいいの?」
冷たい声音。
顔を上げると、今まで見たことのないほど冷たい目をした彼女がいた。
「あの子、あなたの邪魔ばかりしてるじゃない。
役に立ったことなんてある?
あきらにとってプラスになるのかしら。今だって、こんなに苦しめてる」
冷めた表情がふっと緩み、妖艶な笑みへと変わる。
そして彼女は俺の腕に触れ、もう片方の手を胸へ伸ばそうとしてきた。
「やめてくれ」
その手をはじいた。
「……っ」
小森さんは目を見開き、眉を寄せる。
傷ついたように顔を歪め、悔しげに唇を噛みしめた彼女が、叫ぶように言った。
「なによ……あの子には、あの男がいるじゃない!」
本条守。
脳裏に彼の姿が浮かび、ズキンと胸が痛む。
「あの人の方が、星ちゃんにはお似合いよ」
そう言い捨て、小森さんは勢いよく立ち上がった。
背を向けたまま、震える声で続ける。
「帰る。また仕事のとき迎えに来るから」
僅かに肩を震わせたまま、彼女は静かに部屋をあとにした。
しんと静まり返った部屋で、俺はひとり項垂れた。
どれくらい、そのままの姿勢でいたのかわからない。
頭の中に浮かんでいたのは、星のこと。
俺はどうしたらいい?
傷ついた彼女の顔が、頭から離れない。
俺を見つめるあの瞳を思い出すたび、胸が締めつけられる。
ひどいことを言ってしまった。
「あいつの方がいい」なんて、思ってもいないことを。
それに、小森さんとのキス。
あれは俺の意思じゃない。あっちが勝手にしたことだ。
でも、キスをしてしまったことには変わりなくて……星は、傷ついただろう。
俺だって許せなかった。
二人のキスを見たとき、めちゃくちゃ悔しくて、心が引き裂かれるほど傷ついた。
好きであればあるほど、その想いは大きくなる。
俺が一番、その辛さをわかっていたはずなのに。
それなのに、あんな態度を取ってしまった。
「ああ……もう、俺は何してんだ!」
頭を抱え、うなる。
それからも悶々と悩み続け、気づけば夜が明けていた。