溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~
第47話 近くにいてくれるだけで……
涙が渇いたころ、ようやく家へ辿り着いた。
というか、涙がひくまで少し遠回りして帰ってきたのだ。
太陽に心配をかけたくなかったから。
もうそろそろ学校から戻っているはず。
玄関の戸を開けると、やっぱり彼の靴があった。
やっぱり。よかった遠回りしてきて。
私はいつも通りの顔で「ただいま」と言ったつもりだった。
でも、弟に隠し事なんてできないらしい。
太陽はすぐに「なにかあった?」と問いかけてきた。
ごまかそうとしたけど、堪えていた涙がまた溢れてしまって……。
私が泣き出すと、太陽はそれ以上は何も聞かず、そっと隣にいてくれた。
憔悴して動けない私の代わりに、黙って家事をこなしてくれる弟。
その背中を目で追いながら、ふと思う。
ひとりじゃなくてよかった。
彼がいてくれてよかった。
優しくて、頼もしい弟がいてくれて……本当に、よかった。
誰かが傍にいてくれる。それだけで、こんなに救われる。
夕食のあと、
居間でぼんやりしていると、太陽がホットミルクを入れたマグカップを差し出してきた。
「ありがとう」
それを受け取り、いびつに笑うと、太陽は優しく微笑んでくれる。
その笑顔と温もりに、また少し救われた。
ミルクを飲み干すと、私は自分の部屋へ戻った。
疲れ切った心と体を休めるようにベッドに横たわる。
しんと静まり返った室内。
月明かりが薄く差し込むなか、脳裏に、あの光景がまた浮かんできた。
いったい何度目だろう。はっきりと見える。
あきらと小森さんのキスシーン。
彼の口と彼女の口が重なって――
「いやっ」
頭を抱え、首を振る。
やめて。なんで思い出すの。忘れたいのに。
あれはきっと小森さんから。あきらからじゃない。
そんなこと、わかってる。
あきらが浮気するような人じゃないって、ちゃんと信じてる。
でも、冷静でいられなかった。
心が乱れ、胸が痛む。
頭の中でぐるぐると映像が回り、こびりついて離れない。
ほんのわずかに疑いが芽生える。
打ち消しても、何度でも。
そして、あの時の言葉。
『星は本条守がいいんだろ!』
聞きたくなかった。
そんなふうに思われていたなんて、ショックだった。
確かに、守兄は私にとって大切な存在で、初恋の人。
最近はよく会っていたし、仲良くもしていた。
そのせいで、あきらを不安にさせていたのかもしれない。
キスだって見られてしまったし。
――だけど!
信じてほしかった。この気持ちだけは。
あきらが好き。傍にいたい。
ずっと一緒に。
愛しい、愛しいんだよ。誰よりも、なによりも。
その想いは伝わっているって信じてた。
あきらには届いてなかった? 私たち、すれ違っていたの?
私が気づいていなかっただけ?
そう考えると、また涙がにじんだ。
苦しい。つらい。
やるせなくて、切なくて、悲しかった。
次の日。
私を心配した太陽が、学校を休んだ。
「なにも、休まなくたって」
心配ないって伝えてみたけど、太陽はにこりと笑う。
「いいの、いいの。僕こう見えてけっこう優秀だから。一日二日くらい休んでも平気だよ」
平然と言い切るその顔に、思わず表情が引きつる。
……この子、前からできる子だとは思っていたけど、もしかして想像以上なの?
唖然と見つめる私をよそに、
太陽は窓を開け放ち、大きく息を吸い込んで吐き出した。
そして、外を見ながら明るい声をあげる。
「ねえ、天気もいいし、ちょっと出かけようよ」
突然の誘いに戸惑う。
「え? べつに……いいけど」
本当はそんな気分じゃなかった。
けど、太陽が元気づけようとしてくれているのが伝わってきたから。
小さく頷くと、弟は嬉しそうに笑った。
そのまま二人で、出かける支度をはじめた。
「姉ちゃん、早く早く!」
近所にあるショッピングモール。
このあたりで一番大きなモールで、食品や生活用品から洋服、化粧品、雑貨、家電まで何でも揃っている。
ひととおり歩くだけでも、軽く一時間はかかる。
中には映画館やゲームセンターもあって、週末ともなると家族連れやカップルでにぎわっている。
「ひっさしぶりだねえ」
うきうきした様子で振り返る太陽。
満面の笑みを浮かべながら、意気揚々と入口へ進んでいく背中を見つめる。
ふふっ、まだまだ子どもだな。
そう思った直後。
胸がざわついて、私は足を止めてしまった。
「姉ちゃん? どうしたの?」
太陽が不思議そうに振り返る。
ここは……あきらと揉めた場所。
このモールの駐車場で、二人のキスを見てしまった。
そして、あきらと喧嘩した。
胃がきりっと痛む。
「大丈夫?」
弟が心配そうに覗き込む。
いけない。これ以上、心配はかけられない。
「ううん、なんでもない。行こう」
無理に笑顔を作った。少しいびつだったのだろう。
太陽はわずかに怪訝そうな顔をした。
けれど、やっぱり聡い子。深くは聞いてこない。
私は大きなモールを見上げて、一呼吸。
鼓動を落ち着けながら、太陽と並んで足を踏み入れた。
というか、涙がひくまで少し遠回りして帰ってきたのだ。
太陽に心配をかけたくなかったから。
もうそろそろ学校から戻っているはず。
玄関の戸を開けると、やっぱり彼の靴があった。
やっぱり。よかった遠回りしてきて。
私はいつも通りの顔で「ただいま」と言ったつもりだった。
でも、弟に隠し事なんてできないらしい。
太陽はすぐに「なにかあった?」と問いかけてきた。
ごまかそうとしたけど、堪えていた涙がまた溢れてしまって……。
私が泣き出すと、太陽はそれ以上は何も聞かず、そっと隣にいてくれた。
憔悴して動けない私の代わりに、黙って家事をこなしてくれる弟。
その背中を目で追いながら、ふと思う。
ひとりじゃなくてよかった。
彼がいてくれてよかった。
優しくて、頼もしい弟がいてくれて……本当に、よかった。
誰かが傍にいてくれる。それだけで、こんなに救われる。
夕食のあと、
居間でぼんやりしていると、太陽がホットミルクを入れたマグカップを差し出してきた。
「ありがとう」
それを受け取り、いびつに笑うと、太陽は優しく微笑んでくれる。
その笑顔と温もりに、また少し救われた。
ミルクを飲み干すと、私は自分の部屋へ戻った。
疲れ切った心と体を休めるようにベッドに横たわる。
しんと静まり返った室内。
月明かりが薄く差し込むなか、脳裏に、あの光景がまた浮かんできた。
いったい何度目だろう。はっきりと見える。
あきらと小森さんのキスシーン。
彼の口と彼女の口が重なって――
「いやっ」
頭を抱え、首を振る。
やめて。なんで思い出すの。忘れたいのに。
あれはきっと小森さんから。あきらからじゃない。
そんなこと、わかってる。
あきらが浮気するような人じゃないって、ちゃんと信じてる。
でも、冷静でいられなかった。
心が乱れ、胸が痛む。
頭の中でぐるぐると映像が回り、こびりついて離れない。
ほんのわずかに疑いが芽生える。
打ち消しても、何度でも。
そして、あの時の言葉。
『星は本条守がいいんだろ!』
聞きたくなかった。
そんなふうに思われていたなんて、ショックだった。
確かに、守兄は私にとって大切な存在で、初恋の人。
最近はよく会っていたし、仲良くもしていた。
そのせいで、あきらを不安にさせていたのかもしれない。
キスだって見られてしまったし。
――だけど!
信じてほしかった。この気持ちだけは。
あきらが好き。傍にいたい。
ずっと一緒に。
愛しい、愛しいんだよ。誰よりも、なによりも。
その想いは伝わっているって信じてた。
あきらには届いてなかった? 私たち、すれ違っていたの?
私が気づいていなかっただけ?
そう考えると、また涙がにじんだ。
苦しい。つらい。
やるせなくて、切なくて、悲しかった。
次の日。
私を心配した太陽が、学校を休んだ。
「なにも、休まなくたって」
心配ないって伝えてみたけど、太陽はにこりと笑う。
「いいの、いいの。僕こう見えてけっこう優秀だから。一日二日くらい休んでも平気だよ」
平然と言い切るその顔に、思わず表情が引きつる。
……この子、前からできる子だとは思っていたけど、もしかして想像以上なの?
唖然と見つめる私をよそに、
太陽は窓を開け放ち、大きく息を吸い込んで吐き出した。
そして、外を見ながら明るい声をあげる。
「ねえ、天気もいいし、ちょっと出かけようよ」
突然の誘いに戸惑う。
「え? べつに……いいけど」
本当はそんな気分じゃなかった。
けど、太陽が元気づけようとしてくれているのが伝わってきたから。
小さく頷くと、弟は嬉しそうに笑った。
そのまま二人で、出かける支度をはじめた。
「姉ちゃん、早く早く!」
近所にあるショッピングモール。
このあたりで一番大きなモールで、食品や生活用品から洋服、化粧品、雑貨、家電まで何でも揃っている。
ひととおり歩くだけでも、軽く一時間はかかる。
中には映画館やゲームセンターもあって、週末ともなると家族連れやカップルでにぎわっている。
「ひっさしぶりだねえ」
うきうきした様子で振り返る太陽。
満面の笑みを浮かべながら、意気揚々と入口へ進んでいく背中を見つめる。
ふふっ、まだまだ子どもだな。
そう思った直後。
胸がざわついて、私は足を止めてしまった。
「姉ちゃん? どうしたの?」
太陽が不思議そうに振り返る。
ここは……あきらと揉めた場所。
このモールの駐車場で、二人のキスを見てしまった。
そして、あきらと喧嘩した。
胃がきりっと痛む。
「大丈夫?」
弟が心配そうに覗き込む。
いけない。これ以上、心配はかけられない。
「ううん、なんでもない。行こう」
無理に笑顔を作った。少しいびつだったのだろう。
太陽はわずかに怪訝そうな顔をした。
けれど、やっぱり聡い子。深くは聞いてこない。
私は大きなモールを見上げて、一呼吸。
鼓動を落ち着けながら、太陽と並んで足を踏み入れた。